FT-IR用ガスセル内の相対湿度調節が難しかったことから、今年度相対湿度をより正確に調節するために、相対湿度調節した空気を循環させる温湿度調節機をガスハンドリングシステムに組み込んだ。これにより、相対湿度を20~80%の範囲で安定的に制御することを可能にした。また、ガスセルの温度制御を行うために、ガスセルに取り付けられた循環水口と、チラ―をゴムホースで結び、不凍液を循環させることで、-5~30℃の範囲で温度変化も実験できるように改善した。 分子性ナノ多孔質結晶{[Ru(H2bim)3](TMA)・20H2O}nに存在する親水性ナノチャンネル中に水分子ネットワークが形成されている。このとき水素結合で互いに結び付いた水分子は14面体ケージの頂点に位置する。常温、大気圧で安定な水分子14面体ケージ内に、二酸化炭素、窒素、キセノンガスを導入する実験を行った。二酸化炭素ガスの場合は、それ自身の分子振動に起因した大きな吸収が赤外スペクトルに現れ、ガス吸蔵の確認はできなかった。窒素ガスについては、詳細な温度、湿度変化の実験を行った。その結果、水分子のOH伸縮振動が観測される3300cm-1付近に、窒素ガス吸蔵に関係すると期待される吸光度の変化を観測することができた。また、窒素ガスが周りに存在する水分子の影響を受けたことにより、弱い分極を生じたことを示唆する吸収がみられている。キセノンガスについての実験には、同様に水分子のOH伸縮振動に影響があり、ケージ中にガス吸蔵が起きることが分かってきた。同じ分子性ナノ多孔質結晶の骨格ながら、THFを入れて合成するとケージサイズがより大きくなり、相対湿度50%まで水分子ケージが安定化されることが分かった。このケージを用いて、窒素ガスの吸蔵を試みたところ、吸蔵量の増加に伴う水分子のOH伸縮振動の変化が現れた。
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