研究課題/領域番号 |
24651132
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研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
田中 正俊 横浜国立大学, 工学研究院, 教授 (90130400)
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研究分担者 |
大野 真也 横浜国立大学, 工学研究院, 特別研究教員 (00377095)
関谷 隆夫 横浜国立大学, 工学研究院, 教授 (60211322)
島津 佳弘 横浜国立大学, 工学研究院, 准教授 (70235612)
鈴木 隆則 防衛大学校(総合教育学群、人文社会科学群、応用科学群、電気情報学群及びシステム工, その他部局等, 教授 (60124369)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | ナノ材料 / 層状物質 / 半導体物性 / 光物性 / 電子・電気材料 |
研究概要 |
本年度の研究計画に従って、下記の(1),(2)を進めた。 1. 結晶作成 化学気相輸送法による単結晶成長を行うため,まず,原料粉末と輸送ガスを入れた石英管を冷却しながら高真空領域まで排気して封じきるための装置を組み立てた.次に,高温部の最高温度が1000℃程度で低温部に200℃位の温度差をつけられる電気炉,±1℃程度で温度を制御できる回路,及び温度制御プログラムを作成した.遷移金属カルコゲナイドの物性を詳細に文献調査した結果,MoS2よりもバンドギャップが小さい遷移金属ダイカルコゲナイドであるMoSe2, WSe2を候補とし,結晶作成を試みた. 2. ナノレイヤ層状半導体の物性測定 スコッチテープを用いて層状半導体の結晶を機械的にへき開して270nmの酸化膜で被覆されたSi(001)基板に転写した.顕微ラマン分光装置(横浜国大機器分析評価センター(YNU-IAC))の光学顕微鏡を用いて10μm四方程度の大きさの単層から数層の領域をそれぞれ選定し,ラマン散乱スペクトルと発光スペクトルを測定した.最後に,原子間力顕微鏡(AFM)(防衛大)を用いて測定領域のAFM像とその高さを測定し,測定領域の層数を決定した.測定したのは,天然のMoS2結晶,試作したMoSe2, WSe2の微結晶,他研究室から提供されたGaSe結晶である.さらに,MoS2については産業技術総合研究所,物質・材料研究機構において電子線リソグラフィーによって測定領域に電極を作製してFETを作成し,ドレイン電流-電圧特性などの電気的特性を測定した.以上の結果に基づいて,日本物理学会,応用物理学会で3件の発表を行った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
第一に,初年度にもかかわらず多様な試料が入手できたことである.当初は現有の天然MoS2結晶の測定だけを試みる予定であったが,これに加えて試作で得られたMoSe2, WSe2微結晶と他研究室から入手したGaSe結晶が利用できたため,測定結果を相互に比較することで見通しよく研究を進めることができた.第二に,FET作製に関して産総研,物材研の装置が利用できたことが挙げられる.電気的性質の研究は当初横浜国大で行う予定であったが,産総研,物財機構の装置の方が格段に性能も良く効率的であったため,初年度のうちにFET作成プロセスを確立し動作確認を行うまでに至った.プロセス確立の過程で,電極材料の選択,アッシングによるコンタクト特性の改善が必要であったが,これらの課題を横浜国大だけで解決することは不可能であった.
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度に得られた結果を踏まえて,(1)~(3)を行う. (1) 結晶作成: 引き続きグラフェンを凌ぐ特性を目指してMoSe2, WSe2の結晶作成を行うとともに,これらの物質と比較するためにMoS2,WS2の結晶,さらにナノリボンの形成を期待して擬一次元性の強いZrS3やZrSe3の結晶の作成を試みる. (2) ナノレイヤ層状半導体の物性研究: 結晶作成した層状半導体を機械的剥離法でへき開し,平成24年度で試行した光学的性質,電気的性質の測定を行う.AFMで層数の決められた領域についてラマン散乱スペクトルからナノレイヤ層状半導体の格子振動を,発光スペクトルから電子状態や緩和過程を特定する.格子振動や電子状態ならびに緩和過程の層数への依存性,レーザパワー依存性,温度依存性を詳細に調べ,それらの起源,機構を推定する.間接半導体から直接半導体への転換,量子効果の発現などが期待される.産総研,物材研の装置を用いて作製されたFETの電気的特性を測定し,ドレイン電流-電圧特性からキャリアの移動度を見積もる. (3) デバイス応用の可能性の検討: 以上の測定結果から,それぞれの層状半導体についてレイヤ毎の格子振動や電子物性について知見が得られ,層内の相互作用と層間の相互作用,或いはその競合関係が明らかとなる.そして,FET,発光素子,受光素子,太陽電池などの用途に応じて,どの層状半導体の,何層位のレイヤが適しているかを検討し,それぞれの候補を提案する.以上の成果については,ナノ学会,IVC-19(Paris)をはじめ日本物理学会,応用物理学会など各種学会にて発表する予定である.
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次年度の研究費の使用計画 |
防衛大学校への分担金は,大部分を旅費関係に,残りを物品費に使用する予定だった.しかし,防衛大での物品調達は時間がかかるので,24年度は実験装置構築の際に必要な物品が発生するたびに横浜国大から持参して使用した.このため,物品費に相当する額だけ残額を生じてしまった.25年度は,必要な物品がほぼ特定できて事前に発注できる体制になったので,防衛大でも物品費としても執行する予定である.
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