トランジスタは今やエレクトロニクスのみならずナノバイオ分野においても必要不可欠な基盤技術であるが、10nm以下のサイズにおける物理的な動作限界という原理的な問題を抱えている。本研究では、自己組織化酸化物1次元ナノ構造体を用いて、従来原理の“電荷”でも“スピン”でもない、“イオン”を利用した全く新しい原理の酸化物ナノスケールスイッチング素子を創成し、従来原理では不可能であったシングルナノスケール(<5nm)におけるトランジスタ動作を実証することを目的とする。当該年度は、前年度までに達成したヘテロ構造体形成メカニズムを検証するために、ITOナノワイヤをモデル材料として材料供給フラックスが及ぼすナノワイヤ結晶相への影響について検討した。その結果、材料供給フラックスに応じて酸化物ナノワイヤの結晶相がRutile構造(SnO2)からCubic Bixbyite構造(SnドープIn2O3)へと多彩に変化することを見出した。詳細な検討の結果、本現象がIn-O、Sn-Oの原子間結合力の差異によって生じる臨界核生成濃度の差異によってもたらされる結果であることが明らかとなった。本メカニズムを利用することにより、従来バルクでは形成が困難であった準安定結晶相であるFluorite構造(SnxInyO3.5)の作製に初めて成功した。本研究成果は、従来技術では実現困難な結晶相・化学組成の実現を期待させるものであり、ナノワイヤ構造体の更なる機能化へと資する重要な知見である。一方、ナノワイヤと同様の形状を有し地球上に豊富に存在するセルロースナノファイバー(~4nm径)を固体電解質材料として用いることで、極微酸化還元スイッチング素子の作製に成功した。今後は本研究で得られた知見を更に発展させ、3端子駆動の極微トランジスタ素子の創成を目指す。
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