世界的なエネルギー需要の高まりと危機管理面からの要請を受けて、エネルギー源の多様化とともに、エネルギーの有効活用が我が国の重要な研究課題である。一方で「ランダムな分子運動エネルギー」の利用研究は殆ど為されていない。これは理論的に長期にわたり、その利用可能性が否定されていたことが大きい。ようやく近年になって、分子サイズの機械に限られるが、その利用が可能であることが理論的に証明されたが、そのサイズの小ささ故に、分子サイズの機械を構築すること自体が困難であった。合成化学の技術発展により、今ではある程度の分子機械は化学的に創り出し得るようになった。これにより、主な駆動力を熱エネルギーから得、制御のためだけにエキストラのエネルギーを使う、高いエネルギー効率の期待される先進的分子素子の開発も可能となった。ロタキサンはこの様な先進的分子素子構造の第一候補に位置づけられるが、効率的合成方法の開発、素子の新しい出力方法の開拓、ブラウン運動の制御方法案出のいづれもが、難易度の高い挑戦的課題である。 私は輪とストッパー部位が結合したプレロタキサンに嵩高いストッパーを作用させる合成法を見いだし、本法を応用して、異なる二つのストッパーを有するより複雑な構造のロタキサンやその他のロタキサンを容易に合成出来ることを示した。また、特に本年は異なる二つのストッパーを有する、ロタキサン構造に固有の不斉を有するキラルロタキサンを合成した。絶対構造の決定には至っていないが、その用途として不斉指示薬としての検討を行った結果、明確な色調の違いによる不斉認識に成功し、国際シンポジウムで発表した。また、ロタキサンの激しい熱振動を制御するための分子構造と運動性の関係を定量的に調べて分子設計指針を構築するための研究は新しい展開を見せており、そのいくつかは学会発表および論文発表とした。
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