研究課題/領域番号 |
24651146
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
新留 康郎 九州大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (50264081)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 金ナノロッド / 質量分析 / SALDI |
研究概要 |
本研究では金ナノロッドを固定したITO基板は表面支援脱離イオン化質量分析(Surface-Assisted Laser Desorption/Ionization Mass Spectrometry (SALDI-MS))用の基板として利用した。金ナノロッドの固定密度や凝集状態を制御し、金ナノロッドの修飾密度と凝集状態がSALDI効率にどのような影響を与えるかについて検討した。 金ナノロッドはアニオン性高分子poly(styrene sulfonate) を用いて表面修飾し、3-aminopropyltriethoxysilane (APTES)によってカチオン性にしたITO基板に静電的に吸着させた。この基板にオリゴペプチドである10 pMのangiotensin I溶液を滴下しSALDI-MS測定に用いた。測定にはMALDI-MS装置(Autoflex, Bruker Daltonics)を用いた。 金ナノロッド固定化ITO基板のSEM像を画像解析することにより、孤立分散粒子と小規模な凝集体のサイズ分布を明らかにした。金ナノロッドの固定密度を増やすと凝集体の割合が増えることがわかった。孤立分散金ナノロッドが多い金ナノロッド固定ITO基板はSALDI効率が低く、一方凝集体が多い基板では高いSALDI効率が得られることが明らかになった。凝集体のサイズ分布とSALDI効率の相関によって数個サイズの凝集体が高いSALDI効率を示すことが明らかになった。孤立分散粒子と数ミクロンに及ぶ大規模な凝集体のSALDI効率は著しく低いことがわかった。この成果は金属ナノ粒子のサブミクロンサイズの構造化とSALDI効率を定量的に評価した最初の研究成果である。現在、英文学術雑誌に投稿準備中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
ナノ粒子の凝集パターンにより脱離イオン化野制御が可能であることを見いだした。本研究では吸着量の制御というシンプルな方法でマイクロスケールよりもより精細なナノスケールでの構造制御とその評価に成功した。本研究では当初マイクロスケールでの構造制御を予定していたが、ナノスケールでSALDI効率を最適化する構造の検索という点で大きな成果である。この成果は今後のSALDIプレート作成の設計指針を与えるものであり、今後より高効率のSALDIプレートの実現につながることが期待される。
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今後の研究の推進方策 |
これまではSALDI効率は基板表面の平均でしか得られなかった。本年度はターゲット物質のSALDI効率を2次元的にマッピングできるImaging Massシステムを用いてイオン化効率の分布とナノ構造の分布を明らかにする。ナノ構造の分布とSALDIシグナルの分布の相関を明らかにすることにより、より詳細な構造とSALDI効率の相関を明らかにし、今後のナノ構造の設計制御に役立てる。これまでの成果を踏まえて英文学術雑誌に投稿する予定である。Analytical Chemistry レベルの高インパクトファクター雑誌への掲載をめざす。 さらに、ガラス基板上ではなく生体組織中の金ナノ粒子を用いたSALDI現象を検討する。共同研究者からマウスの組織切片を提供してもらい、実験に用いる。各種生体組織中から効率良く金ナノクラスターを脱離イオン化させるナノ/マイクロ構造の設計指針を明らかにする。ガラス基板上との脱離イオン化挙動の違いが大変興味深い研究課題である。
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次年度の研究費の使用計画 |
試薬や実験器具などの試薬、および情報収集・成果発表のための学会参加旅費に使用する。試薬は主として金ナノ構造作成のための塩化金酸、脱離イオン化効率を評価するためのモデルペプチド等が主たる使途である。さらにMALDI-MS装置に適合するITO基板の購入等に使用する。
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