研究概要 |
10,000個のマイクロウェルを配列化したマイクロウェルアレイ電極を用いた誘電泳動を利用して,細胞の表面に発現する抗原と基板表面に固定化した抗体の間の結合力計測を行った.この手法を用いると,大量の細胞を対象に一括計測ができ統計的解析に有利である.まず,マイクロウェルアレイ電極(中心間ギャップ:30 m,ウェル深:25 m,ウェル幅:16 m)を作製した.化学架橋法を利用してウェル底面のITO基板に抗CD33抗体を固定化した.その電極基板にスペーサ(30 m)を介してITO製の電極を重ねマイクロ流路構造を作製し誘電泳動デバイスとした.流路にCD33抗原を発現したHL-60細胞(4.0×107 cells/mL)を導入し,正の誘電泳動の作用する周波数領域の交流電圧(5 MHz,20 Vpp)を印加して細胞をマイクロウェル内に誘導した.交流電圧を印加すると、細胞は電場強度の最も強いウェル内に数秒で移動して捕捉された.捕捉率は80%から90%であった.この状態を10分間保持し,細胞表面抗原(CD33)とITO表面に固定した抗CD33抗体間で免疫反応を進行させた.周波数を負の誘電泳動の作用する周波数領域である500 kHzに切り替えると,反発力が作用し細胞はウェルからメイン流路に移動した.ウェルから除去時の電圧が5 Vppの場合,ほとんどの細胞が除去されなかった.一方,細胞除去時の電圧を10 Vppに設定すると30%の細胞がマイクロウェルからメイン流路へと移動した.また,抗CD33抗体未修飾基板を用いた場合には,細胞の除去率はほとんど同じである.すなわち,細胞表面に発現したCD33抗原がマイクロウェル底面に固定化された抗体による免疫反応で捕捉され,10 Vppの電圧を印加した場合には免疫反応による結合を切断して細胞が除去されたことがわかった.抗原-抗体反応により電極表面に固定化された細胞を負の誘電泳動による反発力を用いて脱離するために必要な力を調査できた.
|