本研究では,ホットワイヤ(HW)で生成した大量の原子状水素で有機アルキル金属を分解する成膜法:HW-MOCVD(HotWire Metal Organic Chemical Vapor Deposition)によって,ZnSeを成膜する基礎技術を開発する。ZnSeは赤外線窓材料として知られているが,ZnSeをHW-MOCVDによって低温かつ高速に堆積できれば,これをマイクロ赤外線センサの窓材料として応用する道がひらく。HWはプラズマと比較して高密度の原子状水素を生成できる。一方,タングステンのHWが原料ガスや基板からの脱離ガスに晒されると,化学反応で傷んだり,あるいは酸化して蒸発したりする。その結果,安定した成膜ができないばかりか,堆積膜に不純物が混入する恐れがある。 このような問題に対して,本研究では,新しいHW装置を開発した。その特徴は,原子状水素を生成するHW部が成膜室とは別になっており,原子状水素を成膜室にガス流で供給することにある。この構成によって成膜室の原料や脱離ガスはホットワイヤには触れず,上記問題が解決される。このような装置を製作し,条件ごとの水素の生成密度,成膜室からHW部への逆拡散などの基礎データを取得し,当該装置が意図通り動作することを確認した。 次に,ZnSeのソースとしてジエチルZnとジエチルSeを選択し,ソース供給部,排気ガス処理部などを構築し,ZnSe HW-MOCVD装置を完成させた。成膜実験を行ったところ,ソースを原子状水素によって分解し,低温で膜を得ることができた。実験結果によると,成膜には適温があり,成膜した部分のみを適温にする制御が必要であるが,これは今後の課題である。 以上,本研究によって,新しいHW装置を構築し,これがZnSe成膜に利用できることを示した。HW部を成膜/反応室と切り離せるという従来にない特徴によって,本研究で開発した装置構成は,ZnSe成膜のみならず,様々な応用に展開できると期待される。
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