研究課題
アゾベンゼン分子は、紫外光照射によりトランス体からシス体に光異性化し、可視光あるいは熱的にシス体から元のトランス体に戻ることが知られている。これらトランス体とシス体は、それぞれの吸収が重なる波長域があり、その波長の光を照射することで、トランス体-シス体-トランス体の連続的な光異性化反応サイクルを起こすことができる。トランス体の分子形状は棒状、シス体は屈曲しており、連続的な光異性化反応は、“バネ”の伸縮に類似した動きを繰り返している。すなわち、分子レベルの光-力変換デバイスとみなすことができる。そこで、本研究は、この連続的な分子形状変化を駆動源として ” 微小物体を捕捉/運動 ” させることのできる材料開発を目指し、分子レベルで発生する極めて小さなエネルギーから、巨視的な力を得るために必要な材料設計やシステム構築のための必要要件、影響因子を明らかにすることを目的とする。
2: おおむね順調に進展している
平成24年度は、光並進運動・捕捉が確認できている液晶マトリックス/アゾベンゼン誘導体の系において ①液晶相構造(スメクチック相、ネマチック相、等方相)、②アゾベンゼン分子の構造の影響を検討し、光運動挙動に及ぼす材料物性や性質の影響を明らかにする。また、光追走現象に関しては、薄膜試料作製法を確立し、アゾベンゼン分子の表面修飾率を向上させることで、再現性の良い試料の作製と、光追走現象に及ぼす修飾率、分子構造の影響を明らかにする。液晶マトリックス/アゾベンゼン誘導体の系において、結晶-スメクチック相-ネマチック相を示す液晶をマトリックスとして用い、スメクチック相-ネマチック相の相変化に基づく光運動が可能であることが明らかとなった。また、光追走運動については、酸化グランフェン等のシート状(ナノシート)の微小物体表面をプッシュプル型アゾベンゼン分子で修飾した光応答性ナノシートが比較的良好な光運動性を示すことが明らかとなった。
液晶マトリックス/アゾベンゼン誘導体の系に関しては、これまでの結果に基づき、液晶マトリックスや分子構造がどのようにして光運動性に影響するのかを、移動速度などを測定することにより、より定量的な評価を行う。また、より精密な運動制御による微小物体のパターニングなどについても検討する。光追走運動については、プッシュプル型アゾベンゼン分子による修飾が効果があることが明らかとなったが、光運動性をより高めるために、プッシュプル型アゾベンゼン分子の修飾分子数を増大(高分子化)を図る。
アゾベンゼン分子合成のための消耗品(試薬、溶媒、ガラス器具など)、光運動挙動を評価するための光学的測定のための光学部品の購入、および研究成果発表のための学会参加費として使用予定である。
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