研究課題/領域番号 |
24651177
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研究機関 | 電気通信大学 |
研究代表者 |
田中 健一 電気通信大学, 情報理工学(系)研究科, 助教 (90408724)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | オペレーションズ・リサーチ / 数理最適化 / 安全性 / 都市・地域計画 / ネットワーク最適化 / 整数計画法 / 多目的最適化 / 数理モデル |
研究概要 |
近年,登下校時の児童が事件や事故に巻き込まれる被害が多数報告されている.対策の一つとして挙げられている集団登下校に着目し,安全性の高い経路設計のための二目的最適化モデルを提案した. モデルの特徴として,ある道路リンクの単位距離を二人以上で歩く場合のリスクは,一人で歩く場合のリスクと比較して小さいと仮定し,リスクの総和を第一の目的関数とした.一方で,最短経路から大きくはずれた経路が生じることを抑えるために,経路距離の総和を第二の目的関数とした. この問題に対する整数計画問題としての定式化を示した.さらに,実際の道路網を利用した例題を作成し,パレート最適解を列挙し解の性質を分析した.結果から,最短経路による下校経路と比較して僅かな経路距離の増分を許すことで,一人で歩く距離を大幅に減少させる解が得られ,安全な登下校経路を設計する際の有用性が確認された. 以上の内容を,数理計画法に関する最新の研究が発表される,RAMPシンポジウムにおける招待講演として発表した.また,European Conference on Operations Research にて英語で発表を行った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
モデル化については,下校に伴うリスクと移動距離の二目的の最適化問題として定式化した.例題に適用しパレート解を分析した結果,一人で歩く距離を大幅に減少させる解が得られ,安全な登下校経路を設計する際の有用性が確認された.この点については,当初予定していた以上に本研究の目的に沿った成果が得られたといえる. また,いくつかの規模の道路網データに適用した結果,ネットワークの頂点数が数百程度までの例題については,複数のパレート最適解を数理計画ソルバーによって算出することが実用的に十分可能であることが判明した.一方で,発見的解法の設計については基礎的アルゴリズムを開発したが,解の精度の面でさらなる向上が必要な状態である.大規模なネットワーク上で良い解を算出するために,問題固有の特徴を考慮した具体的な工夫を検討すべきである. 以上より,おおむね順調に研究が進展しており,次年度に繋がる成果が得られたといえる.
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今後の研究の推進方策 |
安全な下校経路を求めるための現在のモデルは,児童の下校経路を合わせたものは学校を根とする木であることを想定している.一旦分岐した経路が再度合流する状況を扱うことができるモデルを開発することにも意味がある. 問題設定そのものの発展として,児童の登下校を見守る監視員の配置を同時に考慮したモデルも重要である.例えば,登下校時に道路網の交差点や定められた場所に監視員が立ち,児童の安全を確保する状況を発展モデルとして追求する.監視員が配置された区間は,児童が通過するリスクは小さく(またはゼロに)できると仮定し,決められた人数の監視員の配置場所と,児童の下校経路を同時決定する問題を追求する. また本課題は,人の移動や物の輸送に伴うリスクに着目し,これを最小化する流れを求める問題を追求することを目的としている.特に,児童が安全に下校する状況設定でモデルを構成したが,海上の船舶の安全な航行や密林での物資輸送などの様々な応用が存在する.このような対象に共通する構造に着目し,新しいモデルを構成する予定である. また,問題規模が大きくなると数理計画ソルバーで最適解を算出することが困難になる.そのため,変数や制約式の表現を工夫し,より良い定式化を追求する.さらに,大規模な問題を扱うために,良い解を高速に計算する解法を設計する.
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次年度の研究費の使用計画 |
当初予定していた予算の94%を執行し,ほぼ計画通りであった.残高は情報収集のための旅費に使用する予定である.
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