研究課題/領域番号 |
24651184
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
田中 琢真 東京工業大学, 総合理工学研究科(研究院), 助教 (40526224)
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キーワード | 通信 / 同期 / 反応拡散系 |
研究概要 |
災害時における通信タイミングの同期化を実現するために、中心となる要素を導入せず、同等の素子の近接相互作用のみで全素子の同期を実現する手法を開発している。二次元平面上に分散した振動子に振動を記述する二変数以外の変数を付与することで渦を解消し全体を同期させる手法を提唱し、数値計算において有効性を確認した。しかし方程式を構成する項に現実的な実装の難しい部分があることがわかった。 このため別の方程式と手法を開発する必要性が出てきたため、25年度は別の方程式を構成する方向性を模索した。現在振動子のモデルとして使っているのはStuart-Landau方程式だが、よく使われているもう一つの振動子のモデル、蔵本モデルを使うことを検討した。近年、蔵本振動子の集団はWatanabe-Strogatz理論やOtt-Antonsen理論によって低次元に縮約して解くことが可能であることが明らかになってきている。そこで、これに類似した力学系を構成し、その力学系を多数平面内で結合することで見通しのよい振動子モデルを構成することを目指した。見通しのよいモデルを構成すれば、通信タイミングの同期の問題も単純な低次元力学系に落とすことができるのではないかと考えた。 そこで蔵本モデルを拡張した解ける方程式を構成することを試みたところ、高次元の力学系でWatanabe-Strogatz理論やOtt-Antonsen理論を拡張することで解けるものがあることがわかった。この方程式の性質について調べ、集団運動を低次元力学系に縮約できる場合について検討し、縮約された方程式の挙動を解析した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
「研究実績の概要」で述べたとおり、新しい解ける力学系の構成に成功した。しかしながら、この力学系を平面内で結合させて同期させること、さらに同期した力学系の渦を解消させることについてはまだシミュレーションや理論構築を行うことができておらず、本来の研究目的が十分達成される方向に進んでいない。 しかし、本モデルは振動子・力学系の研究としては非常に面白い性質を持っている。群をなす幾何学的変換をもとに力学系を構成し、それによって解が低次元空間の上を運動するような特殊な力学系を得るという方法論はこれまで知られているのとは異なった多彩な力学系を構成し、解くのにも有用であると考えられる。特に、この手法は多数の素子の挙動を低次元の力学系で表現することを許すため、応用範囲が広い。このような手法で生成される力学系について研究することで素子間の同期を成功させる新たな手法についての洞察が得られることも予想されると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後は三つの方面から研究を進める。 第一に、25年度に構成した新しい力学系を発展させる。すでに構成した力学系は高次元球面の上を運動する粒子が相互作用する力学系である。粒子は様々な形態の引力や斥力を持ち、粒子は様々な軸で様々な速度の回転を示しうる。この力学系は振動子の回転速度がある種の分布に従う場合には振動子集団の重心が閉じた方程式で記述される。そのため、振動子集団の同期がいかなる結合強度で生ずるかを解析的に解くことができる。実際にこの解析的な結果と数値計算とは非常によく一致する。この力学系を発展させて、ノイズが入っている場合、時間遅れがある場合、複数の素子集団に分かれている場合、複雑ネットワークの上に振動子がある場合、連想記憶的な結合を持っている場合などについて調べる。 第二に、25年度に構成した力学系を平面内の近傍で相互結合させた場合にどのようにすれば同期を促進させることができるかを検討する。これによって、分散通信においてタイミングの同期を達成する手法を開発する。 第三に、25年度に構成した力学系と同じように、幾何学的変換を元にして力学系を構成し、解ける力学系を多数作る。現在、ベルヌイ方程式の高次元版と見なしうる方程式を調べることを計画している。この方程式では相互作用は同位相と逆位相が同一で見なされるような形で入っており、スピン系ではRP2モデルと呼ばれているものに近い。複数素子の集団運動は非常に単純な方程式で記述され、解析的に解けると予想している。
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次年度の研究費の使用計画 |
素子間の振動の同期化の研究が十分進まず、球面の上を運動する粒子のモデルの理論構築と計算に手間取ってしまった。予算は計算機の購入に充当する予定であったが、球面の上を運動する粒子のモデルの理論構築は完全に理論的な研究であるため、計算機を使用することがほとんどなく、最後のシミュレーションも手持ちの計算機で行うことが可能であった。そのため、予定していた機器の購入を見送り、予算の一部を次年度に使用することにした。 今年度は同期化の研究を進めるとともに、球面の上を運動する粒子のモデルについても大規模な数値計算を行うことを予定している。具体的には、様々なパラメタ領域における挙動を多数の初期条件から数値計算的に調べる必要があるため、PC計算サーバのクラスタを構成し、シミュレーションプログラムを実行する。数値計算に必要な計算機を購入するために助成金を使用する。また、これに伴って研究結果を発表するための学会発表資金として使用する。
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