研究課題/領域番号 |
24651191
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研究機関 | 八戸工業大学 |
研究代表者 |
工藤 祐嗣 八戸工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (80333714)
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キーワード | 植物性バイオマス泡 / 泡消火 / 消火メカニズム / 震災対策 / パッケージ消火設備 |
研究概要 |
東日本大震災の際には同時多発的に発生した津波に起因する火災および瓦礫等による活動障害により,既存の消防力が機能しないままに延焼し,いくつかの市街地火災が発生したことが報告されている.このような火災を防ぐため,個々の家屋の小規模危険物貯蔵施設や火気の使用される場所などに小規模で低価格で提供でき,無電源で動作可能な小型パッケージ型消火設備を配置し,個々の家屋が弱いながらもアクティブな消火機能を持つことで延焼を食い止めようというマイクログリッド消火設備を申請者らは提案している. 本研究では環境負荷の観点,および特に小型パッケージ型消火設備としての利用を想定し,人体に対して安全な泡基剤として植物性バイオマスを使用した泡消火法を提案し,その発泡性能および消火性能を実験的に調査することを目的とする.昨年度は消火ガス種を変えた実験を行い,その消火性能に及ぼす影響について報告した.今年度は,一般家庭において火源となりうるいくつかの液体燃料について,燃料種を変えた実験を行い,消火におよぼす泡の熱的効果について検討を加えた.使用した燃料は昨年度までのn-ヘプタンに加え,一般家庭に存在し,かつ燃焼時の燃料温度がより高い灯油およびてんぷら油である.灯油の場合はn-ヘプタンとほぼ同様の消火時間で消火できたが,てんぷら油の場合は消火時間は短いものの,高温の燃料に触れた泡が一気に体積膨張することで可燃性ガスおよび高温の燃料を周囲に弾き飛ばし,消火挙動として極めて危険であった.さらに昨年度開発した画像解析による泡の崩壊量を算出する手法を用いて,消火泡が蒸発する際に持ち去る熱量Qcolを求め,燃料の顕熱Qfsと比較した.灯油の場合は燃料表面温度が高く消火泡の蒸発量が大きいが,燃料自体が持つ顕熱も大きく,消火泡の蒸発熱が占める割合はn-ヘプタンの場合に比べ小さかった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画していた小型区画での消火実験については,所属機関における実験室の規模,安全対策を考慮すれば,その実現に向けたハードルが大きく,所属機関における実験は困難である.当該実験については,消火器メーカー等との共同実験により実現を目指すこととし,本研究では小型パッケージ消火設備の消火方法として第一候補である,植物性バイオマス消火法における消火機構の解明に注力することとした. 消火機構の解明に関する研究は順調に進んでおり,年度当初に掲げた燃料種の変化による消火能力と消火機構の変化について解明することができた.本消火法は泡に内包した不活性ガスによる気相燃焼抑制機構(一般的なガス消火の消火機構)に加え,液体に還元した泡薬剤が蒸発する際の熱的効果も消火に寄与することがわかった.これにより,燃焼時の表面温度が異なる燃料に対して,それぞれ効果的な消火を行うことができることを示しており,広範な燃焼物が存在しうる一般家庭用消火設備としての優位性があることが明らかとなった.以上の消火メカニズムの解明が進んだことを考慮して,達成度をおおむね順調に推移している,とした.
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今後の研究の推進方策 |
当初計画していた小型区画での消火実験については,所属機関において使用できる実験室の規模,安全対策を考慮した場合,その実現に向けたハードルが大きく,所属機関における実験は困難である.当該実験については,消火器メーカー等との共同実験により実現を目指すこととし,本研究の範囲からは外すこととした.よって,本研究課題としては,小型パッケージ型消火設備の消火法として第一候補でる,植物性バイオマス泡による消火法の消火機構の解明に注力することとする.昨年度の研究により,より広範な可燃物による火災の消火が可能であることが判明し,その消火機構も明らかになりつつある.今年度は消火機構をさらに明らかにするため,消火時の燃焼発熱速度自体を測定することとした.また,昨年度までの研究成果を公開するために,国内の学会に加え,国際会議でも発表を行うこととした.
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次年度の研究費の使用計画 |
申請当初は小型区画による実験を計画していたが,所属機関の実験室や安全対策などの問題をクリアできなかったため,実施を見送ったために,実験装置構築用の物品費の使用が少なくなり差異が生じた. 消火メカニズムの解明に研究の重点を置き,特に今年度は燃焼発熱速度の実測を行うための酸素消費法による発熱速度測定装置の構築と測定を行う.このための実験装置を作成する消耗品の購入と国際学会における研究成果発表のための旅費として使用することを計画している.
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