研究課題
津波の規模と水理量が同等である貞観と3.11の津波での堆積物量の大きな差は,流れの堆積学的解釈に関わる問題を提起している。基本的には物質の供給量が集積量を決定するので,貞観の津波は溯上過程で大量の砂を取り込んだと考えられる。珪藻種組成からみて取り込まれたのは氾濫原起源の陸成砂である。こうした平野の埋積物が大量に搬出される事象に対しては,流れによる氾濫原の洗掘が最も解釈し易く,射流による浸蝕作用として理解するのが妥当であろう。復元された貞観時代の仙台平野の古地形をみると,当時の海岸に近接して,これに並列するように長大な砂丘列が発達していた。津波襲来時にこの地形的高まりが障壁となって海側で水位が上昇し,砂丘の頂面を洪溢した海水が落流して射流が発生したと考えられる。現在の海岸部では人為的な地表固定が進んでおり,射流による洗掘の場は大きく制限されている。一方,自然状態が維持された貞観当時の砂丘地周辺は,非常に侵蝕され易い状況にあったであろう。この地表条件の違いが物質供給量の差となって現れ,貞観津波の場合では,大量の陸成砂の洗堀と移送により津波堆積物層の発達が促進されたと解釈される。土壌中の花粉や根跡により,貞観時代の仙台平野では,森林の発達が自然堤防や砂丘地に集中し,氾濫原野の乾地や湿地は低木や草本類の植生に被覆されていたと推察される。自然の原野では植生被覆の欠如は稀であり,溯上する流れによる地表面の削剥は制限される(下北半島の自然海岸では,3.11津波による再堆積現象が認められなかった)。貞観津波堆積層に顕著な泥の堆積がみられないのはこの理由による。3.11津波の溯上流は大量の泥成分を含み,見た目が泥流に近い流れも映像で目撃された。もし育稲の時期に津波が発生したとすれば,大きく様相の異なる氾濫となったであろう。起源や規模を同じくしても,地表条件により大きく変容するのが津波である。
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