研究課題/領域番号 |
24651203
|
研究種目 |
挑戦的萌芽研究
|
研究機関 | 独立行政法人海洋研究開発機構 |
研究代表者 |
佐藤 佳子 独立行政法人海洋研究開発機構, 地球内部ダイナミクス領域, 技術研究副主任 (40359196)
|
研究分担者 |
熊谷 英憲 独立行政法人海洋研究開発機構, 地球内部ダイナミクス領域, 技術研究副主幹 (10344285)
兵藤 博信 岡山理科大学, 自然科学研究所, 教授 (50218749)
|
研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
|
キーワード | 環境希ガス / 放射性希ガス / 断層放出ガス / 大気拡散 |
研究概要 |
環境希ガスとして存在する放射性希ガスは、核実験の証拠として、第二次世界大戦以降、各地で継続して観測され続けている。日本でも環境放射能の一つとして、放射性希ガス濃度は観測されている。希ガスが大気中に含まれるガスとして非常に少なく、またガスを濃集して放射線強度を測定することが困難なため、すぐに結果が出にくいことから、放射性のガス成分としての測定はガンマ線測定以外では盛んには行われていないのが現状である。一方、安定な希ガス同位体への放射壊変による付加も考えられるため、模擬断層実験から得られた脱ガスの量の試算値により、地震そのものによる大気への希ガス放出の影響とともに考慮が必要である。 そこで、東北地方太平洋沖地震後に、日本全国各地で採取した大気試料と、以前の大気試料とを比較したところ、東北地方太平洋沖地震後に希ガス同位体比が、大気の初生同位体と顕著に異なっていた。 これまでは環境希ガスとして地球大気中に極微量存在していた、放射性クリプトン(Kr)・キセノン(Xe)が広範囲かつ大幅に増加しただけでなく、核破砕起源の娘元素としての安定同位体比にも変化があらわれた。また、アルゴン(Ar)にも変化が見られたが、核破砕起源の同位体比からだけでは説明できない、同位体比を示した。 地球の大気中の希ガスは、全地球史を通じて火成活動を主な供給源とし、そこからの脱ガスにより総量と同位体組成が定まってきたと考えられてきたが、現在の予察的データからは地震による地殻からの脱ガスが示唆される。かつてない頻度で推移している余震活動と比較しつつ、今後の希ガス同位体比変化を追跡することで、大気の希ガス同位体比変動に対する地震活動の寄与が窺われる結果となった。今回国際質量分析学会でトピック講演の機会を得たので、核破砕起源の同位体比に関し、天然原子炉の同位体比と矛盾のない値となった点について学会発表を行った。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
環境希ガスとして存在する放射性希ガスは、核実験の証拠として、第二次世界大戦以降、各地で濃縮状態で継続して観測され続けている。日本でも環境放射能のひとつである放射性希ガス濃度は、3.11の震災と津波による、原子炉からの放射性希ガスの拡散と半減期を大幅に過ぎたことにより大幅に下がっているが、その娘元素の安定同位体比への影響は大きく、未だ、3.11以前の大気の同位体比とは希ガス同位体比が異なっている。本件について、国際質量分析学会でトピック講演として口答発表を行った。 一方、3.11以降の余震も2年を経て減ってきており、定点観測では、Ar同位体比が地球大気の同位体比異常の状態から、初生大気同位体比に近づきつつ有り、試料の測定へも対応できる状況へ変化してきたため、地震起源の希ガスの試算結果を地球惑星連合大会で発表し、初生希ガス同位体比が大気に近い、若い火山岩の年代測定への影響評価を含め、質量分析学会同位体比部会でポスター発表を行った。 地震後の質量分析計の微小な損傷による、装置のリカバリー、海外の共同研究者との別の研究の打ち合わせなどのため、十分にはエフォートが割けず、試料ガスのサンプリング状況は達成されているが、観測されたガスの測定には非常に時間がかかるため、遅れが生じている。当初の見込みより、規模こそ小さくなったが余震が続いていること、また、原子炉の冷却不良などがたまに起こり、多少なりとも放射性希ガスが漏れていることが窺われるためである。 今回の学会発表で、環境大気中の希ガス分析に新たに同位体分析とミキシングの概念が、モニタリングの新たな意識改革の礎となると期待している。
|
今後の研究の推進方策 |
希ガスは地球における存在量が少なく、大気(海水)・地殻・マントルでそれぞれ異なる同位体組成を示すため、また化学的に不活性であるため、これらの物質の混合を元素比や同位体比の変動として他の元素に比べて顕著に検出できるという特徴がある。 本研究では、巨大地震や人為的核分裂を起源と想定される同位体比では、有意に付加された現状での希ガス組成の非汚染大気と拡散により混合希釈していく過程での変化を観測する必要がある。地殻変動による希ガス同位体比の変動を確認するためには、アルゴンだけでなく、放出が期待されるヘリウム、ネオンなどの軽い希ガスも測定することが必要である。予察的に変動が見いだされたアルゴン(Ar)の同位体測定を広汎な地域で採取された大気試料について実施することがもっとも大きな挑戦である。異常の検出しやすいHe と異なり、Ar は大気の主成分であり(1%)、単原子分子として速やかな拡散、平均化により大気に同位体異常がみられるとは全く予期されてこなかった。しかし、我々の予察的データからは、若干の地域性があるものの最も多量に存在する希ガスであるAr-40 を原因とする同位体異常がみられた点について、日本各地の採取した大気試料の分析を今後も丹念に進める予定である。 また、原子炉からの放出核種を主に捕らえる場合には、こうした観点から、大気を採取しての測定は今まで行われていない。核不拡散条約下での測定対象核種としての希ガス同位体は放射性に限られ、壊変後の安定希ガス同位体を含まないので、積算総量の正確な評価には、大気より重いAr、Kr、Xe の同位体比について安定同位体を含めて測定する必要があるため、測定には多くの時間を要する。しかし、ニュースでもよく報道されているように福島原発が終息したかどうか、まだ、確定していないため、これらについても大気試料の採取を進めると共に、測定を続けていく予定である。
|
次年度の研究費の使用計画 |
該当なし
|