研究課題/領域番号 |
24651205
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
木村 一郎 北海道大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (60225026)
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研究分担者 |
清水 康行 北海道大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (20261331)
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キーワード | 雪崩 / 粒子法 / 数値解析 / 雪氷災害 |
研究概要 |
1.大規模雪崩計算に向けてのベースモデルの最適化 数値雪崩を実スケールを含む大規模計算に適用するため計算負荷と精度の観点から,ベースモデルの再検討を実施した.昨年度まではMPS法型粒子法を用いてきたが陰的圧力計算ルーチンが計算負荷を増大させることが指摘されてきた.そこで別の代表的粒子法スキームで完全陽解法アルゴリズムを用いたSPH法を取り上げMPS法と比較を実施した.この結果SPH法はMPS法に比べて大規模計算時の負荷が小さく,MPS法特有の圧力計算不安定がSPH法では生じないことなど利点を確認した.しかしSPH法では擬似圧縮性などの複数パラメータを最適に同定する作業が必要という欠点もありSPH法とMPS法の選択にはこれらの特性を総合的に関する必要があることを指摘した. 2.雪崩構成則のスケール依存性の解明 雪崩構成則は雪物性の粒子性,流動性,可変性などにより必然的に複雑となる.これまでビンガム性とダイラタント性を考慮した枠組でパラメータを実験値との照合により同定した構成則を用い比較的良好な結果を得てきた.しかし実規模雪崩への適用に向けてスケール依存性についての検討が必要となる.そこで,従来から雪崩の構成則として比較的よく用いられてきたHerschel Bulkleyモデルとこれまでのビンガムダイラタントモデルの2つを異スケール雪崩に適用しその再現性を検討した.これより斜面長が10m程度を超える大規模雪崩ではHerschel Balkleyモデルの再現性が勝ることなどを示した. 3.雪崩減勢工最適化に向けた実験と数値解析 減勢工は流動速度を低減,減勢工に加わる抗力が小さいこと,閉塞が起きないこと(完全停止させず減速)などが求められる.これらをふまえ減勢工の最適形状の検討のため砂を用いた模型実験を実施した.これより格子状の横断構造物を流れ方向に直列に設置しその間隔を適切に設定することで適切な減勢効果が得られることを指摘された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
数値雪崩モデルのブラッシュアップは確実に進行しており,実スケール雪崩や減勢工周辺の現象などに対しての信頼性は実用の域に達していると判断する.また,減勢工形状の最適設計法についても,今年度の予備実験により,その方針が固まり,これを土台として,最終年度である平成26年度は主にパラメータスタディ注力することが可能な状況である.一方,雪崩ベースモデルの一つの目標でもある,「雪崩の開始モデル」については,種々の方向性を試みてみてはいるが,未だその方向性が確定していない.粒子法は基本的に流体モデルであることから,塑性体から流体への移行を伴う雪崩開始のモデル化には,新たなブレークスルーが必要である.また,減勢工の設計手法の確立においては,これまでに数値雪崩モデルと砂による代替実験により検討を進めてきた.平成25年度には,雪による実験の準備を進めてきたが,天候上の理由により実施できなかった. 以上のように,数値雪崩モデルの高度化が着実に進む一方で,雪崩開始モデル開発と,雪を用いた減勢工実験の2点の遅れが顕在化しており,これらを総合して「やや遅れている」と判断した.
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今後の研究の推進方策 |
研究最終年度である平成26年度には,次のような課題を実施する. 1.雪崩開始モデルの構築:雪崩ベースモデルにおける雪崩開始現象(静止状態からなんらかの外的衝撃力により雪崩が開始する過程)を再現するモデルについて検討を進める. 2.雪を用いた雪崩減勢工の最適化実験: 昨年までの砂による代替実験の結果をふまえつつ,雪を用いた実験をなるべく多くのケースで実施し,砂と雪の挙動の類似性と相違を明らかにしつつ,減勢工性的設計に死するデータを取得する.これらの結果をもとに,必要に応じて数値雪崩モデルのモデル定数等を再チューニングする. 3.雪崩減勢工の形状パラメータ最適設定方法の確立:雪および砂における減勢工実験結果を補間する条件で数値解析を実施し,減勢効果,閉塞の有無,減勢工に加わる最大抗力の低減等の観点から最適な形状パラメータ設定方法を検討する.設定する形状パラメータは,減勢工部材の直径,横断方向間隔,流れ方向間隔等であり,適切な無次元パラメータに置き換えて検討を進める.最後に,減勢工の最適形状パラメータ設定方法を図表化するとともに,設計手順のフローを示す.
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度の冬季に実際の雪を用いた屋外雪崩減勢工実験を計画し,準備を進めてきた.しかしながら,天候等の理由により,実験を実施することができなかった.このため,実験材料,実験データ整理等に関わる経費に未使用分が生じ,繰越につながった. 平成26年度冬季に,平成25年度に未達成であった雪による屋外模型実験を実施する予定であり,繰越分は主にこの実験の材料,機材レンタル代等に充てる.
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