モデル植物シロイヌナズナのゲノムには、膜輸送体と思われるタンパク質をコードする遺伝子が約1400種類存在し、それらの分子機能解明が待たれている。本研究はこれら膜輸送体の候補分子の能力を包括的に解析し、重金属、薬物、植物由来天然物といった有害物質の膜輸送と関連づけことを目的としている。昨年度までに、候補分子をコードする遺伝子群の95%のクローニングに成功し、酵母、動物細胞、植物それぞれに導入したライブラリの作出に成功している。 本年度は、モデル植物シロイヌナズナを用いた膜輸送体過剰発現発現ライブラリから得た新たな機能獲得株のうち、本研究課題に関連して重金属と関わりが示された株について、原因遺伝子の特定と、遺伝子機能の解析を進めた。また、それらの成果について、学会発表を行った。 重金属である銅、亜鉛、ニッケル、またはカドミウムに対する感受性が変化した4つの候補株について、各株の重金属に対する耐性スペクトルを明らかにした。また責任遺伝子を同定するため、過剰発現ベクターにタグされた遺伝子を特定し、それらを再度シロイヌナズナに導入して、機能獲得の再現性を調べた。 一方、植物の液胞内金属濃度を反映すると考えられる植物色素アントシアニンの発色に着目した研究では、膜輸送体候補分子過剰発現ライブラリの親株に用いたpap1Dと比べ、青みが増した候補株に焦点を当て、金属含量の分析と責任分子の解析を進めた。並行して、アントシアニンの色変化能を評価するため、レタス着色プロトプラストを用いた新規実験系の開発を行った。その結果、これまで報告例のない新たなタイプの輸送体が液胞膜にあり、アントシアニンの青色化を促進する因子となりうることを明らかにした。
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