研究概要 |
本研究の目標は「多動症の家系における遺伝子の解析により、CIN85異常によるヒト多動症の遺伝子診断法の確立」にある。これまでに明らかになった、CIN85欠損マウスの多動性やヒトCIN85の染色体上の位置などを考え合わせると、多動症患者におけるCIN85遺伝子異常の可能性は高い。 ドイツ ゲッチンゲン大学 医学部附属病院のShoukier博士から提供されたヒト多動症家系3名分のゲノムDNAのCIN85遺伝子における塩基配列をIllumina HiSeqによる次世代シークエンス(オペロンバイオテクノロジー株式会社に外注)により解析した。 遺伝子欠損の可能性のある404部位について、タンパク質をコードする部位をNational Center for Biotechnology Information (NCBI, 米国国立生物工学情報センター)のMap viewerを使って精査した。 その結果、男性患者の13番目のエクソンに31塩基の欠損(12,688,962-12,688,992)を発見した。この領域の後半13塩基は、CIN85のアミノ酸をコードする部位である。この欠損によってアミノ酸の翻訳のためのコドンが変化し、本来のCIN85とは異なったアミノ酸配列のタンパク質が生合成される。特に欠損部位はCIN85の構造上Proline-rich領域 (Pro-rich) と呼ばれているドメインで、他のタンパク質と結合することによって情報伝達機能を担う部位である。多動症患者ではアミノ酸のフレームシフトによってProline残基(アミノ酸配列内でPで表示)がすべて消えてしまっている。このProline-rich領域の機能の消失が正常な脳機能における細胞内情報伝達機構を撹乱し多動症を発症させると考えられる。
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