研究課題
現在の臨床現場における多動症の診断の多くは、米国精神医学協会によるDiagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders (DSM)第4版 (DMS-IV) によるもので、行動学的評価が中心である。MRIなどによる脳組織の器質的異常の検査や血中カテコールアミンの測定を行う場合があるが、多くは担当医師の主観的な診断に頼っている。今回我々が発見したCIN85という膜受容体の発現を制御する遺伝子の欠損や異常がドーパミン受容体の発現異常を誘起し多動症を引き起こすという新たな発症メカニズムは従来の報告とは異なり、受容体自体の遺伝子異常ではなく受容体の分解を制御する分子の異常によるもので、全く新しいメカニズムを提示している。この点が新しいアイディアである。我々の研究においてもヒトCIN85遺伝子はX染色体短腕(Xp22.1-p21.3)に存在することが確認された。ADHDは女児に比べて圧倒的に男児に多い(男児3:女児1)ことを考え合わせると、この遺伝子が多動症の主な原因遺伝子である可能性は極めて高い。我々はヒト多動症家系の患者のゲノムDNAからCIN85遺伝子領域を抽出、PCRで増幅後、シークエンサーにて塩基配列を同定した。同時に複数の健常人由来の遺伝子においても同様に塩基配列を同定し、両者を詳細に比較・検討した。
3: やや遅れている
ヒト多動症家系3名分のゲノムDNAのCIN85遺伝子における塩基配列をIllumina HiSeqによる次世代シークエンスにより解析した。遺伝子欠損の可能性のある404部位について、タンパク質をコードする部位をNational Center for Biotechnology Information (NCBI, 米国国立生物工学情報センター)のMap viewerを使って精査した。その結果、Red (男性患者)の13番目のエクソンに31塩基の欠損(12,688,962-12,688,992)を発見した。この領域の後半13塩基は、CIN85のアミノ酸をコードする部位である。この欠損によってアミノ酸の翻訳のためのコドンが変化し、本来のCIN85とは異なったアミノ酸配列のタンパク質が生合成される。特に欠損部位はCIN85の構造上Proline-rich領域 (Pro-rich) と呼ばれているドメインで、他のタンパク質と結合することによって情報伝達機能を担う部位である。多動症患者ではアミノ酸のフレームシフトによってProline残基が消えてしまっている。このProline-rich領域の機能の消失が正常な脳機能における細胞内情報伝達機構を撹乱し多動症を発症させると考えられる。
本研究開発では当初掲げた多動症患者におけるCIN85遺伝子異常の同定には成功した。しかし、解析した全ての患者DNAから異常が同定された訳ではない。今後、解析する患者のDNA数を増やし統計的な解析が必要である。また、最終目標であった遺伝子診断法の確立には未だ至っていない。今後の研究推進のための方策として、1. 本研究開発課題の成果を基に、さらなる患者ゲノムDNAの解析を進め遺伝子欠損を確定し、目標である遺伝子診断法の確立を目指したい。2. 多動症患者ゲノムDNAからCIN85遺伝子の部分欠損を世界で初めて同定できた。この結果は多動症の発症メカニズムを理解するうえで重要な知見である。この欠損が多動症発症に具体的にどのように関与しているかについて、分子生物学的/生化学的手法を用いて明らかにしたい。さらに、学術論文として著し、本症の病態解明や治療に対して貢献したい。
ヒト多動症の遺伝子診断の確立に欠くことのできない多動症を発症している遺伝子サンプルの収集とDNA塩基配列の決定に予想以上の時間がかかっている。そのため本来購入するはずのDNA塩基配列を解読するための試薬・キット・シークエンサー使用料に未使用が発生している。DNA塩基配列を解読するための試薬・キット・シークエンサーの使用料に使用する。
すべて 2014 2013
すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (3件)
J Neuroendocrinol.
巻: 26 ページ: 164-75
10.1111/jne.12135.
Physiological reports
巻: 2 ページ: 1-10
10.1002/phy2.197
Endocrine Journal
巻: 60 ページ: 1221-1230
Life sciences
巻: 92 ページ: 911-915
10.1016/j.lfs.2013.03.007.
Cerebellum
巻: 12 ページ: 572-586
10.1007/s12311-013-0465-z.