ゲノム機能発現の包括的理解には、生細胞におけるゲノムDNAとトランス作用因子の相互作用の全体像を把握する必要がある。そのために用いられる主な技術はクロマチン免疫沈降シーケンス法であるが、その成否は良質の抗体の有無に依存する上に、個別因子ごとの解析しかできない。これらの制約がない手法としては、単離核のDNaseI処理に基づくDNase-Seq法があるが、核の単離を伴う点で厳密にはin vivo解析とは言えず、技術的にも難易度が高い。 そこで本申請は、核を単離することなく生細胞をそのまま処理できる方法として、ジメチル硫酸(DMS)in vivoフットプリント法に着目し、これを次世代シーケンサー(NGS)と組み合わせたゲノムワイドin vivoフットプリント法DMS-Seqの開発に挑戦した。 接合フェロモンα因子で処理した出芽酵母と未処理細胞をDMSとピペリジン処理に供した後にLM-PCRを用いてSTE2およびSTE3遺伝子座を調べて条件の最適化を進めた昨年度の成果に基づき、今年度はNGS解析を念頭に置いた条件検討を進めた。その過程でピペリジン処理を行わなくても、高温処理のみで十分な切断が起こることが判明した。そこでその断片をそのまま次世代シーケンサー用ライブラリ調製に用いて、イルミナMiSeqによる配列決定を行った。得られたリードを酵母ゲノムにマッピングして解析したところ、DNase-Seqと類似したピークパターンが得られることが判明した。特に、DMSによる切断が集中する領域に由来すると考えられる短いリードのみを用いて検出したピークは、α因子で発現が誘導される接合関連遺伝子の近傍に濃縮されることが分かった。 以上の結果から、リード数の関係でフットプリントの検出には至らなかったが、DMS-Seqがクロマチンのアクセシビリティを探る新しい手法として有効である事が強く示唆された。
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