本研究では、放線菌の線状ゲノムに枯草菌の全ゲノムを挿入し、ツインゲノムを有する人工生命体の創成を最終目的とし、その技術的側面の可能性を追求した。平成24年度は蛍光色素やプラスミドを利用し、プロトプラス融合系の最適化とプロトコール化を実現し、放線菌、枯草菌の融合による細胞質の混合に成功している。平成25年度は完成した系を用いて枯草菌のゲノム上に放線菌actinophageの組み込み部位を挿入し、平成24年度構築した融合系で細胞質融合を行った。抗生物質の併用による選択で、枯草菌ゲノム由来の代謝系を抑え、放線菌ゲノム由来の代謝系を持つ株を選択した。選択した株は表現形に少し異常が見られたが、放線菌の形態を示していた。選択された候補株からゲノムをとり、マルチPCRで確認したところ、選択に用いた薬剤耐性遺伝子存在は認められたが、500kbから2Mbの組み込み点から離れた領域は含まれていなかった。さらに組み込み点周辺を調べると薬剤耐性遺伝子を含む、非常に小さな領域のみが組み込まれていた。CHEFを利用してゲノム型を調べたが、マクロ的にはホストに利用した放線菌のものと同じであった。この結果は一度組み込まれた枯草菌ゲノムが速やかに排除されたと考えられた。我々の結果や国内の他の研究チームの枯草菌に巨大なGC含量が高いDNAを組み込む試みの失敗より、あまりにもゲノムのGC含量が違うゲノムの移植は困難だと考えられた。最後に視点を変えて、接合を利用した大腸菌-枯草菌間のゲノム工学を目指し、両者の接合による遺伝子交換技術を開発した。
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