ハエトリソウの捕虫運動とアメリカネムノキの就眠運動は同一の内因性物質ジャスモン酸グルコシド(JAG)で引き起こされる。前年度の光親和性分子プローブの合成に引き続いて、運動誘導に関与するシグナルに関する検討を行った。 運動細胞をモデル系とする実験によって、JAGは活性酸素種の発生を誘導する機能があることが明らかになった。活性酸素種の添加によって、細胞の収縮は誘導されなくなった。これらの結果は、運動細胞において、JAGによって活性酸素種がセカンドメッセンジャーとして生産されることを示している。また、これに応答するカリウムチャネルに関しても同定が進んだ。このチャネルは活性酸素種の添加によって活性化された。この様な活性化は、過去に報告例がある相同性の高いチャネルと類似していた。しかしその後の実験から、活性化に関与する分子機構が異なる可能性が示唆されており、一層の検討が必要である。一方で、このチャネルは特異的な速度論的性質を有しており、就眠運動特異的に関与する可能性が高いと考えられた。捕虫運動のような早い運動に関与する活動電位発生誘導には、さらに応答の早いイオンチャネルの関与を考える必要がある。ハエトリソウの全ゲノム情報、あるいは運動細胞のトランスクリプトーム解析に基づくイオンチャネルの同定が必要である。これらの結果から、就眠運動と捕虫運動では、同一のセカンドメッセンジャーを使用しながら、異なるイオンチャネルの応答が関与している可能性が示唆された。
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