研究課題
挑戦的萌芽研究
多くの動物では、受精に先立ち、卵から放出される化学物質によって精子が誘引される。この卵による精子誘引作用は種特異的で、尾索動物ホヤでは種毎に異なったポリヒドロキシステロール硫酸抱合体が種特異的な精子誘引物質として働いていると考えられる。本研究では、カタユウレイボヤ精子誘引物質SAAFの合成・分泌経路の解明を進め、さらに近縁他種の精子誘引物質を同定して比較することで、卵での精子誘引物質合成・分泌のメカニズムを解明すると同時に、種の多様性が 生じるメカニズムについても迫ることを目標とする。平成24年度は以下の研究を行った。(1) カタユウレイボヤ卵におけるSAAFの合成系路の解明: 精子誘引物質SAAFは成熟した未受精卵から放出されるが、SAAFの合成経路は全く不明である。そこでSAAF合成経路の解明を目指す。まずSAAF合成の最終過程と考えられる硫酸抱合反応を行うと考えられるSULT2A1の遺伝子をカタユウレイボヤで同定し、クローニングを行った。さらにSULT2A1の発現をPCR法及びin situ法により解析したところ、SULT2A1が実際に卵巣において、卵母細胞表層か卵付属細胞であるテスト細胞で発現していることが明らかとなった。(2) カタユウレイボヤ卵におけるSAAFの分泌調節機構の解明: 卵よりのSAAFの分泌に関わる分子機構について検討している。AAFと結合することがわかっているVCP/p97の発現を詳細に調べたところ、卵形成に従って卵細胞内で発現していることが明らかとなった。(3) 精子走化性の分子機構における種特異性と普遍性の理解: 種特異性のある精子走化性の普遍的な分子機構を理解するため、カタユウレイボヤでの知見をベースにして、近縁かつ別属のホヤでの精子誘引物質の構造決定を行う。今年度はPhallusia mammilataの精子誘引物質の同定を開始した。
2: おおむね順調に進展している
本研究の取りかかりとして、まずは既知の分子を足ががりにSAAFの合成・放出機構を明らかにすることを今年度の目標にしてきた。その結果、硫酸抱合を司る酵素であるSULT2A1を卵巣内の卵母細胞で発現することを明らかにすることができた。この結果は当初の目論見通りであり、今後の研究遂行にも順調な出だしであると言える。
本研究は新規の開拓分野であり、すぐには成果が望めないため、他の研究と共用できる部分は出来るだけ共用し、効率的に最大限の効果を得られるように努力する。平成24年度にある程度手がかりとなるSULT2A1やVCP/p97の遺伝子の同定や時空間的な発現パターンがある程度得られたため、これを足がかりにさらに研究を進める。また、カタユウレイボヤ以外の他種のホヤのSAAFの精製にも継続してあたる。さらに、SAAF合成系におけるメタボロミクス解析を開始する。
本研究では、充足率の関係で、研究後半に行われる本来必要な予算が得られていない。今年度は研究初年度で、エフォートが限られる中で研究遂行を行う必要があったため、遺伝子サンプル調製や、分子生物学的実験等の過程等でPCRや電気泳動の際に空いているを用いる等、他の研究との手順の共用化を最大限図り、予算執行の抑制を行った。その結果生じたこの研究費は、次年度以降、メタボローム解析や抗体作成等、費用がかかる研究の原資として有効に用いる予定である。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (5件) (うち招待講演 1件) 備考 (2件)
Organic Letters
巻: 15 ページ: 294-297
doi: 10.1021/ol303172n
Developmental Biology
巻: 367 ページ: 208-215
doi: 10.1016/j.ydbio.2012.05.011
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