研究課題
申請者らが苔類コハネゴケより見いだした新規フシコプラジン類は、真核生物に普遍的に存在する14-3-3タンパクとシグナル伝達系タンパクとの会合を制御することで動植物に対して様々な活性を示すフシコクシン/コチレニン類と類似した母骨格構造を持つ。フシコプラジン類の置換基が従来の構造活性相関と相反するにも関わらず強い動物細胞分化誘導活性等を有することから、フシコプラジン類はフシコクシン/コチレニン類の作用機序の解明や構造活性相関に新たに重要な視点を与える化合物と言える。しかし、コハネゴケは成長が遅く、フシコプラジン類の蓄積は微量であり、生産性のケモタイプが3種存在して採取も難しいことから、安定した供給方法の構築が急務である。本研究はフシコプラジン類の生合成に関わる酵素遺伝子群を網羅的に明らかにすると共に、モデル苔類のゼニゴケにおいて生合成経路の再構築にこれらの酵素遺伝子群を用いることにより、フシコプラジン類の効率的生産システムを確立することを目的とする。当年度は次世代シーケンサーを用いて、新鮮なコハネゴケのケモタイプA~Cを材料としたmRNA配列解析を行うと共に、得られるcDNA断片配列のアセンブルとアノテーションおよび生合成酵素遺伝子候補の絞り込みを計画した。所定のサンプル調製を行い、illumina GAIIxによる配列取得とアダプター配列などの削除を行った。100bp cDNA断片配列は各種アセンブルソフトウエアを用いて二次アセンブルまで行い、それぞれのケモタイプごとにスーパーコンティグを作成した。得られたスーパーコンティグはLocal BLASTによってアノテーションを行い、テルペン環化酵素遺伝子、P450酵素遺伝子、アセチル基転移酵素遺伝子等の遺伝子配列候補を抽出できた。これらについて進化系統樹解析および発現量解析により候補遺伝子の絞り込みを検討した。
3: やや遅れている
当年度は次世代シーケンサーを用いて、コハネゴケのケモタイプA~Cを材料としたmRNA配列解析を行うと共に、得られるcDNA断片配列のアセンブルを計画していたが、次世代シーケンサー付属のサンプル調製機器およびシーケンスデータ取り込みとアセンブルに用いるコンピューターサーバーの相次ぐ故障により、予定していた研究計画からはやや遅れる結果となった。予定していたLocal BLASTによるアノテーションと各遺伝子候補の絞り込みまでは実施できたが、炭素骨格の形成を担う重要なテルペン環化酵素等の機能解析を開始するには至っていない。現在のところケモタイプCから得られたテルペン環化酵素遺伝子断片配列等についてRACE実験を行い、全長配列を確定しているところである。一方、部位特異的導入効率を高めることのできる形質転換ゼニゴケの作出については、作出に必要なプラスミドコンストラクトの作成を前倒しで着手した。
ケモタイプCからはテルペン環化酵素遺伝子断片をはじめ幾つかの生合成酵素遺伝子候補が得られたが、ケモタイプAに関しては満足なテルペン環化酵素遺伝子断片が得られなかったことから、精製方法を変えてポリアデニル鎖を持たないmRNAのシーケンスも実施する予定である。また、前年度から引き続き候補酵素遺伝子群の全長配列を決定して行くと共に機能解析を行う。全長配列がすでに得られた候補遺伝子については従来の大腸菌や酵母を用いた機能解析を進めるとともに、部位特異的導入効率を高めることのできる形質転換ゼニゴケの作出とこれを利用したコハネゴケ由来フシコプラジン類生合成酵素遺伝子群の機能解析を行う予定である。
次世代シーケンサー付属のサンプル調製機器およびシーケンスデータ取り込みとアセンブルに用いるコンピューターサーバーの相次ぐ故障により、予定していた研究計画からはやや遅れる結果となった。次年度に持ち越して使用する予定の研究費については、候補酵素遺伝子群の全長配列決定及び機能解析とケモタイプAからの新たなサンプル調製に用いる予定である。これらの研究計画を遂行する上で、確立されている方法を用いるため、特段の課題等は想定されないが、計画を遂行するため、次年度に予定していた部位特異的導入効率を高めることのできる形質転換ゼニゴケの作出は前倒しで実施するなどの対策を講じた。
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