研究課題/領域番号 |
24651258
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
長澤 和夫 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (10247223)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | サキシトキシン / ナトリウムチャネル / 阻害剤 / サブタイプ選択性 / 構造活性相関 |
研究概要 |
痛覚、心拍、筋肉等の生命活動に重要な役割を果たす電位依存性ナトリウムチャネル(NaVCh)は現在、9つのサブタイプが知られている。これらは、テトロドトキシン依存型(TTX-s)と抵抗型(TTX-r)とに分類される。TTX-sに対するリガンドは、天然海産毒テトロドトキシン、サキシトキシン等が知られるが、TTX-rのリガンドは未だ天然から発見されておらず、また化学合成による創製も困難である。本研究では、これまで行ってきたサキシトキシン(STX)の全合成の成果、報告されたSTX-ナトリウムチャネルタンパク質のドッキングスタディの知見を基盤とし、STX誘導体を活用するNaVChサブタイプ選択的リガンド創製を目的として研究を行った。 STX誘導体はこれまでC13位について精力的な構造展開がなされてきている。これらの先攻研究ではC13位カルバモイル基の水素結合供与能、立体的な大きさが阻害活性発現に重要であることが示唆されている。そこで今回STX誘導体類で初めてC13位に窒素官能基を導入したグアニジンおよびウレア誘導体の合成を行った。これら両官能基はカルバモイル基と同様水素結合供与能もあり、空間的な大きさもほぼ等しいが、電子的な要因が大きく異なる。またこの領域は、サブタイプ間でアミノ酸の配列が顕著に異なる唯一の領域であることから、サブタイプ選択性も期待できると考えた。STXの全合成経路を基盤に、計画した両誘導体の合成に成功した。また合成した化合物のナトリウムチャネル阻害活性について、Nuero-2aを用いた細胞レベルでのアッセイを行った。その結果、いずれの誘導体もSTXより約100分の1の阻害活性しか示さないことがわかった。Nuero-2aはTTX-sのサブタイプNaV1.2を主に発現していることから、得られた結果は、今後のサブタイプ選択性を検討する上で重要な知見である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新規サキシトキシン誘導体の合成に関して、今回C13位にグアニジン、およびウレア官能基を有する化合物を設計した。これらは、これまで我々の研究室で築いたサキシトキシンの全合成手法、即ち1)ニトロンとニトロアルケンとの1.3-双極子環化反応、2)温和な条件下でのビスグアニジン骨格構築法、を基盤として、全ての官能基が保護された形でのサキシトキシン骨格を持つ合成中間体を活用することで、効率よく合成することができた。なお、今回合成したC13位に窒素官能基が導入された誘導体はこれまでに例がない。 今回設計した誘導体は、これまでC13位に関して重要だと示唆されている、水素結合供与能、空間的な大きさをサキシトキシンと同様に兼ね備えているが、電子的な要因のみが異なり、サブタイプ間での阻害活性に大きな影響を与えると考えられる。得られた化合物に関して、細胞系においてNaVCh阻害活性評価を行った。得られた結果は、予備的知見ではあるが、TTX-sであるNaV1.2を発現しているNeuro-2a細胞に対して、STXの100分の1の活性しか示さなかったことから、今後パッチクランプを用いた詳細なサブタイプ間選択性を検討する上で、重要な知見であると考えられる。 誘導体の合成研究、また活性評価についても、当初の計画通りに進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
(1)サキシトキシン誘導体の構造展開 これまでの構造活性相関からの結果、また新たに報告されたナトリウムチャネルの構造を用いた申請者等によるドッンキングモデルの結果から、C13位近傍の環状グアニジンもサブタイプ間のアミノ酸配列との相互作用において、重要な役割を果たしていると考察している。そこでC13位に着目した構造展開に加え、新たに当該グアニジン骨格に着目した構造展開を計画する。具体的には、電子的な影響を換えた環状ウレア骨格を有する誘導体の合成を計画する。また引き続き、C13位に窒素官能基を有する誘導体を系統的に合成し、サブタイプ選択的な誘導体の創製を目指す。 (2)ナトリウムチャネル阻害活性評価 合成した誘導体類は、細胞系において予備的な知見を得た後、今年度は電気生理学的手法であるパチクランプを用いた詳細なサブタイプ選択性について評価を行っていく。細胞系の実験では、NaV1.2(TTX-s型)を主に発現している神経芽細胞腫Neuro-2aに、Naチャネルを解放するベラトリジンとNa/K ATPase阻害剤のウアバインを加え、細胞内のNa+イオンが過剰になり細胞生存率が低下する環境下で、NaVChを阻害する阻害剤を加えることで生存率が上昇する系を用い、NaVCh阻害活性を評価する。また、パッチクランプ法では、ヒト胎児腎臓細胞HEK293に対し、トランスフェクションによりチャネル遺伝子(NaV1.2: rat brain sodium channel (rBII)および NaV1.5: rat cardiac sodium channel (rH1))をそれぞれ導入し、これらを24~72時間培養した後、パッチクランプ実験を行うことで、サブタイプ選択性に関して評価を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
今年度は、電気生理学的な方法による活性評価の実験に遅れを生じたため、これに伴う次年度への予算の繰越が発生した。 次年度は、誘導体の合成に加え、合成した化合物の生物活性評価に注力を行って研究を展開する。 化合物を合成するための合成試薬購入経費に加え、合成した化合物の電気生理学的な活性評価を行うための試薬、細胞購入のための経費、さらに当該評価の指導をしていただく広島国際大学への出張のための経費を計上した。 また英文校閲、論文別刷り、学会出張等の経費をこれまでの実績から勘案して計上した。
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