研究課題
本研究は、応募者が独自に開発した細胞外蛋白質リガンドの標識法(cutinase 融合法)を利用し、化合物の非特異的毒性や擬陽性の出現に課題のある細胞挙動を指標としたこれまでのスクリーニング法にかわり、受容体への結合を直接かつ簡便に測る方法を用いて、信頼度の格段に高いスクリーニング結果を短い期間で得る方法論を確立するものである。その過程で、近年重要な創薬ターゲットとして注目されているWnt シグナル経路のDkk1/LRP6 相互作用を標的にした低分子化合物を得ることも試みる。項目1(細胞外シグナル分子のcutinase 融合発現系の構築):LRP6のリガンドであるDkk1、プレキシンB1のリガンドであるsema4D、ニューロピリンのリガンドであるsema3Aの3種の細胞外シグナル分子について、N末端にcutinase を融合したコンストラクトを作成し、HEK細胞において一過性に発現させる系を確立した。これらの分泌融合蛋白質は、pNPP-biotin, pNPP-AlexaFluoreなどで簡便に1段階標識できることも確認した。項目2(受容体安定発現細胞株の取得):受容体側としてLRP6およびニューロピリンのGFP融合蛋白質を細胞上に発現させるコンストラクトを作成し、その発現に成功した。プレキシンについてはその巨大なサイズと細胞毒性によって細胞上への高レベル発現が困難であったため、可溶性フラグメントの安定発現株を樹立し、これをビーズ上にキャプチャーして結合アッセイ系を構築することにした。項目3(HTS フォーマットの確立):CHO細胞で安定発現株樹立が可能であったプレキシンA2について、384ウェルプレート上での培養を行い、ここに対するリガンド(sema6A-cutinase-Alexa488)の結合を蛍光プレートリーダーで高速に評価する条件を確立した。
2: おおむね順調に進展している
予定した5種類のリガンド-受容体ペアのうち3つについてcutinase融合アッセイを行う条件を決定することができ、1つについてはすでにHTSフォーマットでの測定が低い誤差でできることを確認した。残りの2つのペアについては発現や親和性の問題で当初の予定通りのシステム構築が難しいことがわかったが、その代わりに可溶性蛋白質をビーズにキャプチャーすることで受容体発現細胞株の取得に換えることができることを明らかにした点は特筆に値する。また、計画には無かったがアルツハイマー病に関わるγセクレターゼサブユニットであるニカストリンについてcutinase融合発現を行い、これを用いて環状ペプチドバインダーを単離することができた(東大・菅裕明博士との共同研究)ことは予想以上の進展である。よって総合的には「おおむね順調に進展している」と自己評価する。
実際の研究を開始すると、当初予定していた多数のリガンド-受容体ペアをすべてカバーするのは発現上のトラブルなどから現実的で無く、むしろ本システムを使って良好な結果が得られるセットについて着実にスクリーニングを進めていくことがより重要であることが明らかになった。よって二年度目には特にプレキシンとニカストリンについての化合物(ペプチドを含む)スクリーニングとヒットした化合物の性状解析に焦点を絞るよう計画を変更しようと考えている。
上記のように、次年度はLRP6-Dkk1やセマフォリン-プレキシンのペアについて計画通りのアッセイ系構築とスクリーニングを行うとともに、可溶性発現受容体を使ったビーズアッセイと環状ペプチドバインダー探索の実施を増やす。これらの実験ために必要な設備は現有のもので十分であるので、主に消耗品(培養、精製、生化学、およびイメージング実験)と試薬類、そしてデータ整理のためのパソコンなどに経費を充てる予定である。
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