研究実績の概要 |
平成24年度には,これまでに報告されていなかった新たな産地を確認したほか,これまでの我々の知見とは異なり,嫌気性細菌によって形成されている「天狗の麦飯」が存在することを明らかにした。さらに,平成25年度には,微生物群集構造解析の方法として,CARD-FISH法やメタゲノム解析法を導入し,両解析手法による群集構造の類似性と相違について考察した。平成26年度は,1935年に高橋基生によって報告されていた産地のうち、不明となっていた産地の1つを再発見し,これまでに解析した他の産地の微生物塊との形態や微生物群集構造の相違ならびに類似点を明らかにした。再発見した産地の「天狗の麦飯」には,厚い細胞外マトリックスをもつ細菌が複数種存在し,それらの細菌が微生物塊の大半の体積を占めていた。それらの細菌の形態は,直線距離で約50km離れている産地の「天狗の麦飯」に観察される細菌のものと一致していた。また, PCR-DGGE解析においも,両産地の「天狗の麦飯」がAciodobacteria, Proteobacteria, Chloroflexi(Ktedonobacteria)を主たる構成者とすることが共通していることがわかった。このように山系,標高も異なる離れた場所において類似の微生物群集が観察され,また,それらの群集が類似の微生物塊を形成していたことは,「天狗の麦飯」が特定の環境条件がそろえば,どこにでも形成される可能性を示唆していた。一方で,再発見ができなかった産地では,ササに被われたことによって産地の確認ができなかったほか,土壌化によって麦飯様の微生物塊が確認できなかった。また,多くの現存産地も土壌化によって産出範囲が狭くなっていた。これらのことから,「天狗の麦飯」の消滅には,植物による被覆や土壌化が深く関わっているものと考えられた。
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