研究課題/領域番号 |
24651283
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
清水 晶子 東京大学, 大学院情報学環, 准教授 (40361589)
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研究分担者 |
飯野 由里子 東京大学, 教育学研究科(研究院), 特任研究員 (10466865)
星加 良司 東京大学, 教育学研究科(研究院), 講師 (40418645)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | クィア理論 / フェミニズム / 障害学 |
研究概要 |
研究初年度にあたる本年度は、主に先行研究のレビューと4回の研究会を通じた知見の共有とを通じて、本研究の理論的枠組みを準備することにあてられた。 1. 分担者清水は、クィア理論における越境性や可動性への志向性の孕む暴力性の予兆が病む身体と死との関係においていかなる理論的逡巡をもたらすのかを明らかにした。また、クィア理論史を再検討し、初期の理論および運動に見られる差異の主張と流動的アイデンティティの強調とが新自由主義的な自己責任能力をもつ個人の称揚へと再回収される要素を孕んでいた事を確認した。また、国際学会に参加し、新自由主義とナショナリズムを取り入れた近年の日本の性的少数者運動を3.11以降の日本社会という文脈に即して分析する報告を行った。 2. 分担者飯野は、ネオリベラルな統治性と「市民の身体(civic body)」の生産に着目したインダーパル・グリュワルの議論を検討した。その結果、1)近年、フェミニズムを含む社会運動が商業化/市場化されることで脱政治化されてきたこと、2)そのように脱政治化された社会運動において多用される言説(たとえば、「ライフスタイル」や「選択」をめぐる言説)が"contingent ability"を持てる者と持てない者との間に不均衡を生みだすこと、3)こうした不均衡が「危機」の時代(正確には、「危機」が日常化される時代)においてより暴力的に作用してしまうこと、を確認した。 3. 分担者星加は、障害研究における社会的困難の分析において体的特質(インペアメント)がどのように位置付けられてきたのかを歴史的文脈と関連付けて整理し、主に、(1)集合的運動が優先される文脈の中で身体的差異を不可視化する認識が強化されてきたこと、(2)危機の前景化と統合圧力の上昇が身体を序列化する言説と親和的に機能すること、について明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、理論的枠組みの準備についてはおおむね順調に進められた。 しかし、研究を遂行する中で、これらの枠組みを研究全体の目的でもある3.11以降の日本についての考察と具体的に交錯させはじめるべく、初年度末に研究成果をもとに外部研究者も招聘して公開シンポジウムを開催することが望ましいだろうという判断にいたったものの、より広い参加者を募るための準備(具体的には、アクセス保障のための文字翻訳、手話翻訳者確保の手続きと、その費用の確保)の必要から、このシンポジウムは2013年度初頭に持ち越すことになった。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度は、本年度に得られた知見をもとに、福島について/において研究を進めているクィア・スタディーズおよび障害学両分野の研究者を招聘し、6月に公開シンポジウムを開催する。 これと並行して、具体的な3.11以降の言説を分析しながら、被災した性的少数者や障害者に対する配慮をめぐるネガティヴな反応、反原発運動における〈奇形児〉への恐怖の導引、「女性と子ども」の安全が無条件に強調される言説等 の中に既に萌芽的に顕在化している、特定の身体を前提し優先する社会的・文化的実践に着目し、 そこに働くネイション構築の規範を分析を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
24年度から持ち越した研究費については、6月に予定されている公開シンポジウムでの情報保障費用に充当することとする。 また、旅費はベルギーで予定されている国際学会での報告に充てる予定である。
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