研究課題/領域番号 |
24651288
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 京都学園大学 |
研究代表者 |
黒木 雅子 京都学園大学, 人間文化学部, 教授 (20319437)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | ジェンダー / エスニシティ / キリスト教 / アイデンティティ / 複合的マイノリティ / ポスト植民地主義 |
研究概要 |
「複合的マイノリティのアイデンティティ交渉」という研究目的のもとで、平成24年9月全国教会女性連合会主催で「ジェンダーの視点で読み解く女性問題 」という講演を、在日大韓基督教大阪教会で行った。その準備段階で、エスニシティとジェンダーにおける日本の複合マイノリティである在日韓国・朝鮮人女性たちとの出会いを通して、彼女たちの教会での活動や抱える問題などインフォーマルな情報収集を行った。そこでは、ジェダー、エスニシティ、基督教(プロテスタント)というカテゴリーだけでは括れない経験の多様性とアイデンティティの重層性を確認することができた。 また、エスニシティを優先し、ジェンダーが問題化されにくいエスニック・マイノリティ教会への不満は、90年代に私が北カリフォルニアでインタビュー調査した日系アメリカ人女性たちの声と共通する。彼女たちのなかには、日系アメリカ人教会はエスニシティでは満たされても、ジェンダーや宗教的には満たされないとして教会を離れた人もいる。では複合的マイノリティにはどのようなサバイバル戦術があるだろうか。 10月に京都大学人文科学研究所主催国際シンポジウム「人種神話を解体する」に参加した。エスニシティが人種に代わるものではなく、両者の概念は歴史的、社会的コンテクストによって異なるので、両者の関係の再考が必要だというという認識を得た。 11月にシカゴで開催されたアメリカ宗教学会に出席し、フェミニスト神学の最新の研究や動向の情報を得た。そこで、ジェンダー、エスニシティ、セクシュアリティにおける複合的マイノリティの存在と研究の可視化がさらに進んでいることが確認できた。 平成25年3月には、関西学院大学国際学部の李恩子氏と共に、「エスニシティ・ジェンダー・キリスト教・宗教」の研究会を立ち上げ、研究者による研究と社会変革のための実践の両側面を視野にいれ考察と検証をすすめていく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平24年度は、在日大韓基督教の女性たちを通して、エスニシティ・ジェンダー・キリスト教のはざまに位置する複合的マイノリティのアイデンティティ交渉を確認することができた。彼女たちは、日本という社会的コンテクストにおいて、エスニシティ、ジェンダー、キリスト教によってもたらされる差別や葛藤に対して、ポスト植民地主義、ファミニズム、キリスト教の視点で部分的連帯をしながらサバイバルしようとしているのではないか、といういうことである。言うまでもなく、それらの定義は単一ではなく今も多くの議論がある。しかし、サバイバル戦術の考察には、エスニシティであれジェンダーであれ、single issue approach (一つだけを問題にする)では不十分であり、それらを連結した視点が必要である。 平成25年3月に立ち上げた「エスニシティ・ジェンダー・キリスト教/宗教」研究会で、それがどのように可能かを考えていきたい。それぞれの問題に関心をもつメンバーが集まったが、今後定期的に研究会を開き、どのようにポスト植民地主義、フェミニズム、キリスト教を流用した戦術が可能か探る予定である。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度に引き続き、第二回「エスニシティ・ジェンダー・キリスト教/宗教」研究会を5月に行い、日本型多文化主義の問題点を考察した。今後、研究会では研究者だけでなく社会変革の実践にたずさわる人(男女)にまで広げて発表者やゲストを迎え、議論を深めていく予定である。それによって、エスニシティ・ジェンダー・キリスト教/宗教のはざまのアイデンティティを考察したい。 今年度の調査に、教会以外のキリスト教組織と女性たちを加える予定である。それは、女性のエンワーメントを実践するキリスト教基盤の国際NGOのYWCA(基督教女子青年会)である。その歴史は古く、1855年に英国で始まり、現在日本を含めて125余りの国で、日本では25の地域YWCAが活動している。私はこれまで北米と日本の地域YWCAで活動と交流を行ってきたので、活動を続けながら参与観察を行う予定である。 また今年度の予定として、夏にチェコとミクロネシアを訪ね、アジア系のキリスト教関係の女性たちのリサーチを計画している。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度および25年度の研究調査の成果をもとに、在日およびアジアのキリスト教女性という複合的マイノリティが、エスニシティ・ジェンダー・キリスト教のはざまで経験する差別と葛藤に対して、どのようにアイデンティティの交渉を行い、サバイバルしようとしているか、報告書を作成して印刷物とする。
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