研究課題/領域番号 |
24652005
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
中岡 成文 大阪大学, 文学研究科, 教授 (00137358)
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研究分担者 |
西川 勝 大阪大学, 学内共同利用施設等, 教授 (10420423)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 自己変容 / 対人援助 / 臨床哲学 / 尾崎放哉 / 養生 / 高齢者ケア |
研究概要 |
・自己変容の哲学的側面 臨床哲学研究会(7月8日)で中岡著『試練と成熟--自己変容の哲学』の合評会を開いた。研究分担者・西川のコメントも含め、自己変容の哲学について種々の角度から意見交換することができ、きわめて有益であった。また、自己変容の哲学に関連した勉強会(バタイユ、デリダについて)を期間内に計10回開き、そのつど研究協力者・田口了麻による発表を交えてきめ細かく討論することができ、有益であった。バタイユの思想については、田口の2度にわたる出張(公開シンポジウム「欲望と表現 2012バタイユ没後50年」(法政大学言語・文化センター)、バタイユ・シンポジウム(東京・ザムザ阿佐谷))を通しても、その本質について理解を深めることができた。 ・養生もしくは公衆衛生関連 公衆衛生研究会を3回開き(大阪大学文学部)、フーコーの思想や日本におけるメタボリズム対策への批判的視点について検討した(身体観の変容と援助)。また、大阪大学大学院医学系研究科公衆衛生教室で「養生論と自己へのケア」と題する特別講演会を開き、公衆衛生の専門家たちと立ち入った議論を交わすことができた。養生のテーマに関しては、さらに、特別養護施設グレイスヴィル舞鶴(舞鶴)で「養生訓」についての対談を行った(研究分担者・西川と)。対談後、同施設の施設長らと意見交換をすることができ、対人援助の観点から有益な知見を得ることができた。 ・文学者の自己変容と対人援助 研究分担者・西川の2度にわたる尾崎放哉記念館(香川県小豆郡)を中心とした調査研究を通して、尾崎放哉が小豆島滞在中に地元民から受けた「援助」の特質と、それによる放哉の自己変容の内容を明らかにすることができた。その一端は、自己変容研究会(2月27日、大阪大学・全学教育機構)において「尾崎放哉の小豆島における自己変容――ケアの創造性――」と題する研究発表において説明された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「研究の目的」では、「対話の過程で生じるであろう個人や集団の存在論的変化(自己変容)に着目」すると述べたが、それについては、研究代表者・中岡のとくに養生論についての調査研究(公衆衛生の観点を含む)、研究分担者・西川のとくに尾崎放哉の小豆島における自己変容の調査研究、研究協力者・田口のとくにバタイユの思想的・文体的・人間的自己変容に関する研究を通じて、多角的かつ充実した形で実践されている。 また、「研究の目的」では、「その結果得られた知見・成果をすぐれた対人援助の基本的理念や基本的態度にフィードバックする」ことを掲げたが、それも「研究実績の概要」で述べたとおり、高齢者ケアの現場で対談をし、関係者と意見交換をすることで着実に実現しつつある。 その他、研究代表者は、大阪市内の医療施設の臨床倫理事例検討会および倫理カフェ(期間内に計6回)に進行役として参加し、医療者の自己変容および医療施設の組織変容について関係者と共同で検討を進めており、これは「平成24年度の研究実施計画」に掲げたとおりである。また、研究協力者も、「平成24年度の研究実施計画」に掲げたとおり、大阪大学の大学院共通教育において、自己変容モデルと「ケアの創造性」に関する対話的授業を継続的に行っている。 さらに、和歌山・大阪のALS患者との交流、京都の難聴当事者および施設スタッフとの集まりも継続的に行っており、それによる信頼関係構築と、家族や支援者の自己変容についての知見の積み重ねをもとに、「メディカルカフェ」(仮称)を試行する準備も整いつつある。 また、「研究実績の概要」ではスペース不足で記せなかったが、研究代表者は「自己変容の哲学」と題する専門科目講義を大阪大学文学部および文学研究科で継続的に行っており、とりわけ著書『試練と成熟--自己変容の哲学』の内容を講義に反映させつつ、双方向的な対話形式により、研究課題を深めている。
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今後の研究の推進方策 |
・研究課題の哲学的・理論的側面については、研究代表者・分担者・協力者がそれぞれに調査研究を通じて知見を深め、学会・研究会発表等を通じて成果を発表するとともに、自己変容研究会(安楽分科会を改称)を開いて互いの「変容」の知見や経験をすり合わせる。また、研究代表者は「養生論」についての著書をまとめ、年度内に公刊する。 ・教育的側面とフィードバックについては、研究代表者は「自己変容の哲学」講義とそこにおける双方向的な対話形式を継続し、研究分担者は大阪大学の大学院共通教育における、自己変容モデルと「ケアの創造性」に関する対話的授業を継続する。それらの教育経験と受講者からのフィードバックを自己変容研究会において検討する。 ・フィールド的側面においては、①和歌山・大阪のALS患者、京都の難聴当事者および施設スタッフとともに、「メディカルカフェ」(仮称)を試行し、その成果について分析を行う。②大阪市内の医療施設の臨床倫理事例検討会および倫理カフェ(今年度も計6回を予定)に進行役として参加し、医療者の自己変容および医療施設の組織変容についての関係者との検討をさらに進めて、がん専門看護師の対話的・ファシリテーション的能力の養成に向けてのプログラム的なものをまとめる。
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次年度の研究費の使用計画 |
・旅費 調査旅費として、研究代表者10万円、研究分担者20万円、研究協力者10万円の計40万円を支出する見込みである。また、研究成果発表旅費として約10万円を見込んでいる。 ・物品費 参考文献(書籍)購入のために、研究代表者のために約18万円を支出する見込みである。また消耗品(文房具)代として約2万円を支出する見込みである。
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