本研究では、対話を中心とした社会的・自然的過程で生じる個人や集団の存在論的変化(自己変容)に着目し、研究代表者・中岡の養生論、研究分担者・西川の高齢者ケア論(尾崎放哉論を含む)、研究協力者・田口のバタイユ論を中心に、自己変容・臨床哲学と対人援助との関係を研究した。これらは対人援助の哲学的・倫理学的基盤について、また現代社会における援助実践に大きくかつ具体的な示唆を与えるものである。 その哲学的・理論的側面については、自己変容研究会を通じて互いの知見をすり合わせるとともに、西川は最終年度に2冊の著書を公刊し、田口は数度にわたる学会・研究会における研究発表を行い、また中岡も自己変容についての理論書上梓(初年度)に基づいていくつかの研究発表を行うと同時に、養生論についての著書の執筆を進めて公刊が確定している(『養生する私』(仮題)、ぷねうま舎)。教育的側面とフィードバックについては、大阪大学大学院における「自己変容の哲学」講義とそこにおける双方向的対話形式、および自己変容モデルと「ケアの創造性」に関する対話的授業などを通じて、教育とフィードバックを深めることができた。以上の成果は、中岡の大阪大学退職に伴い、大阪市内で市民を対象とする「哲学塾」が発足したことで、さらに広範な形で展開される予定である。フィールド的側面については、哲学カフェや「福祉ものづくり」を通しての和歌山・大阪のALS患者との交流(立正大学・湘南工科大学との協力)、また大阪市内の医療施設の臨床倫理事例検討会および倫理カフェなどを通して分析された医療者・医療組織の自己変容の検討を進めたが、後者の成果はがん専門看護師のファシリテーション能力の養成に向けてのプログラム作成に生かされることが決まっている。
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