本年度は最終年度であることから、リハビリテーションと精神医学にかかわる臨床知見をもとに、神経系の仕組み及び「発達」現象の捉えなおしを試みた。その際の手がかりとして、システムの「レジリエンス」という概念に着目することで論点を展開した。というのも、中枢神経系障害の治療において顕著となるように、大脳神経系の組織化の仕組みを考慮すると、病前と同様の神経ネットワークの再現は不可能であることから、その場合の回復や寛解は、システム(個体)の再発達のプロセスとして、しかもレジリエントな発達プロセスとして考慮されざるをえなくなるからである。神経系に機能障害が起きるほどの変化が生じたさい、膨大な神経細胞はシナプスネットワークを再編する。それは細胞の生存をかけた戦いでもある。ここでの生存戦略に、再発達の基本モードと、レジリエントな発達のための治療の工夫余地とがある。本研究では、レジリエントなシステムがもつ特性を以下のように剔抉した。①多様性の確保と複雑さの維持、②中程度攪乱の寛容性と耐性の強化、③並行分散型ネットワークの確保、④代替ネットワークの確保、⑤中枢制御系の不在⑥単離可能性の吟味、⑦冗長性の活用。 神経システム、身体動作システム、心的システム、いずれもレジリエントなシステムには、これら特性が結果として見出される。ただし、これら特性が必要十分条件であるのかは未決であり、これら以外にも多くの特性があると想定しておいた方がよい。そのことは、共同研究で明らかになったように、統合失調者の中には動作システムと心的システムの連動不全があり、それがレジリエントな統合を妨げることがあることからも示唆される。さらにこれら7項目は、相互に機能化、もしくはサブカテゴリー化することができ、それぞれの項目を臨床の中でどのように配置し、展開するのかに応じて臨床における手続き的指針の一つとなることが明らかにされた。
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