研究課題/領域番号 |
24652008
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
秋山 学 筑波大学, 人文社会系, 准教授 (80231843)
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研究分担者 |
秋山 佳奈子 (吉森 佳奈子) 筑波大学, 人文社会系, 准教授 (10302829)
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キーワード | 虚空会 / 摩訶止観 / 高貴寺 / 重授戒灌頂 / 西来寺 / 妙有 / 宗淵 / 戒体 |
研究概要 |
本年度は慈雲関係の論文を2本発表した.まず第1は「菩薩戒と『摩訶止観』─慈雲と天台思想の関係をめぐって─」である.筑波大学附属図書館に慈雲の直筆本として所蔵される『法華陀羅尼略解』は,天台律僧の妙有が借り受け筆写して所持し,さらにそれを妙有の盟友宗淵が弟子に筆写させた原本であることが明らかになっている.その写本が津の西来寺に残る『法花陀羅尼句解』であるが,このように老慈雲は,天台律僧たちとの交流を通じて『法華経』の注釈に取り組み,梵学と律・密・禅・神道そして円学の統合を模索していた.本論文では,菩薩戒・具足戒の具備を掲げ「十善戒」を強調する正法律の主唱者慈雲にとって「戒体発得」の瞬間が「虚空界」に置かれるということと,菩薩戒のみながら「重授戒灌頂」を継承する天台僧にとって『法華経』虚空会に属する見宝塔品第11での二仏並坐の場面が授戒と理解されるということが,「虚空会における戒体発得」という点で一致し,この点が彼らの交流を促進したものと推測した.第2論文「「古典古代学」開題─学の円頓性を求めて─」では,上述のような「虚空会」理解は,たとえば『ヨハネ福音書』19,34に見られる「十字架上のキリストの脇腹からの血と水の流出」を聖霊の発出と解するとき,聖霊の伝承が十字架上という虚空において実現するという神学と通底し,筆者の唱える「異教予型論」を強く支える論拠として機能するということを立証した.このほか,関東に拠点を置き大正大学の関係者より組織される「悉曇蔵研究会」の方々を,平成25年10月22日河内高貴寺で行われた慈雲尊者開山忌法要にご案内し,真言・天台の交流そして関東・関西仏教界の交流を,現代において実現するという実践活動に取り組んだ.また,キリスト教文献としては最も早く「ブッダ」の名が現れる著作として知られるアレクサンドリアのクレメンス著『ストロマテイス』の全訳を成し遂げた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度は本研究企画の2年目であるが,上述のように,キリスト教の核心部を成す『ヨハネ福音書』の聖霊伝承が十字架上で行われるという神学と,大乗仏教の根幹の一つとなる『法華経』中の虚空会が「授戒」の場として意義づけられるという仏学とが,「虚空会」という統一的場から止揚されえたことは,予想以上の成果であると言える.これは,東西世界を代表する2大宗教が,ともに地上という世俗世界を超絶した「虚空会」を基盤としているということを如実に示すものであろう.この理解に関しては,2013年度冬学期に招聘を受けた東京大学大学院宗教学宗教史学専攻での集中講義においても受講者たちに披瀝し,大きな反響を得た.また申請者にとって後発の研究分野であった仏学に関して,『魔訶止観』を含む「天台三大部」をひとまず読み解く作業が,やはり慈雲尊者を導きとして行われえたという事実は,慈雲のスケールの大きさを改めて実感させてくれる体験であった.以上から,これまでのところ本研究企画は予想以上の成果を挙げていると考えて差し支えないと考える.
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今後の研究の推進方策 |
次年度は本研究企画の3年目すなわち最終年度に当たる.これまでのところ,慈雲が晩年に体系化した雲伝神道の内実と,最晩年の直筆本として発見された『法華陀羅尼略解』との関連性がいまだに解明されていない.雲伝神道に関しては,『先代旧事本紀』に見られる天孫降臨の記事を基にして,「十種神宝」を「十善戒」と関連させる慈雲独自の解釈をめぐる論考を準備中である.また本研究企画の発足とともに本格的に開始したサンスクリット文法の教育研究も軌道に乗ってきたところである.3年目の最終年度も,これまでの路線を継続して研究の集大成を試みたい.
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