研究課題/領域番号 |
24652010
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 南山大学 |
研究代表者 |
柳澤 田実 南山大学, 人文学部, 准教授 (20407620)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | キリスト教 / 倫理 / 生態心理学 |
研究概要 |
今年度は、文献読解に基づき、次年度以降の実験実施のために不可欠な理論的な整備を行った。すなわち、実験に先立ち、他者を援助する側が他者をどのように知覚し、またどのように行為をしているのかを、キリスト教の伝統的テキストから抽出した上で、それを生態心理学の実験に接続する可能性を探った。具体的には以下の通りである。第一に、新約聖書、教父神学を中心に「隣人愛」について表現されているテキストを再検討し、それらを知覚と行為という観点から改めて整理し直した。第二に、熊谷晋一郎氏の著作を中心に、介護を受けている当事者のテキストを検討し、そこで介助者と被介助者の間で生じていることがどのように表現されているのか、知覚と行為という観点から検討した。第三に、ジェームス・ギブソンとエドワード・リードの著作における、養育者による子供の学習援助に関する論述を検討し、生態心理学において他者を援助することがどのように捉えられているのかを確認した。第四に、エドワード・リードが理論的に依拠している哲学者ジョン・デューイの代表的著作を読解した。これらの四つの作業から、「隣人愛」などの他者の介助/援助が目指す「他者の行為可能性の増大」とは「生きること」そのものに内在する規範性にほかならないこと、また、そうした「他者の行為可能性の増大」に向かって他者を援助するためには、行為への能動的な構え、他者の行為を「充たされざる意味」を充たそうとする努力のもとに捉える視点、そして実際に行為するために不可欠な「予期する」能力を養う必要があることが明らかになった。この成果は、部分的に、大阪大学最先端ときめき研究推進事業部主催の招待講演で発表され、論文としては、『知の生態学的展開』第三巻(東京大学出版会)の最終章「可能性を尽くす楽しみ、可能性が広がる喜び――倫理としての生態心理学」としてまとめられた(2013年度中に公刊予定)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2012年度は文献研究のほかに、早稲田大学人間科学学術院にて実験機器(モバイル式アイマークレコーダ)の習得を行う予定であった。文献研究については十分に推進でき、とりわけ生態心理学の古典的テキストにおいて、他者の行為を援助することがどのように捉えられているのかを明確化できたこと、また障害者支援における介助とキリスト教の「隣人愛」の接点を確認できたことは、文献研究と生態心理学による実験を接続するという本研究の目的にとって大きな収穫であった。なぜならば障害者の支援、とりわけリハビリテーションに関しては、既に生態心理学やそのほか経験科学に基づく先行研究があるため、本研究にとってどのような実験が相応しいかについての見通しを立てることができたからである。その一方で、文献研究に多くの時間を割いたために、予定されていた実験機器の習得については実施することができなかった。またこれに関連し、当初予定していた業者からの実験機器(アイマークレコーダ)のレンタルが2012年度の予算内では困難であることが判明したため、2013年度の予算と併せてレンタルする、あるいは購入する可能性を探る方向へと計画を変更し、あえて2012年度は研究費を使用せずに、既に持っている資料と図書館の資料で文献研究を進めた。
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今後の研究の推進方策 |
2013年度を開始するにあたり、指導を仰ぐ早稲田大学の三嶋氏に相談したところ、モバイル式のアイマークレコーダとその解析ソフトに関しては、実験機器の習得の際のみならず実験の実施においても、早稲田大学人間科学学術院の機材を使用できることとなった。初めての実験への着手にあたり知識が不十分だったことから計画が二転三転したが、改めて研究機関からの貸与によって実験を推進できる状況になり、2013年度の研究を開始することになった。 今後は、2013年度の7月までに、必要な文献研究として、近現代のキリスト教神学における「隣人愛」の分析、経験科学に基づく現代のリハビリや障害者支援に関する先行研究調査を行い、実験によって検証すべき問題を更に絞り込む。その成果をもとに、8月から9月にかけ、早稲田大学人間科学学術院にて、三嶋博之氏の指導のもとアイマークレコーダによる実験と実験結果の解析方法を習得する。2014年3月には三嶋氏に機材を借り受けた上で実験を実施し、同氏の指導のもと解析を行う。2014年の夏にはその成果の一部を日本生態心理学会および日本宗教学会で発表する予定である。また2014年度中には、文献研究と実験を総合した上で論文をまとめ、日本生態心理学会の学会誌、日本宗教学会の学会誌、そしてJournal of Cognition and Culture (Brill)に投稿する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
第一に、リハビリテーションおよび障害者介助を対象にした先行研究文献の購入費用、ルター、カルヴァンをはじめとしたプロテスタントの古典的著作の購入費用として研究費を使用する予定である。第二に、実験機器の習得および実験結果の解析のために行う、早稲田大学人間科学学術院への出張費として使用する。第三に、実験機器の習得および実験結果の解析にあたり指導いただく早稲田大学の三嶋博之氏への謝金(専門的知識の提供)も必要となる。第四に、実験に際して、実験状況の記録および、被験者のインタビューの記録のために使用するビデオカメラの購入を予定している。
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