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2013 年度 実施状況報告書

「隣人愛」の再定義:文献研究と生態心理学実験に基づくキリスト教的倫理研究

研究課題

研究課題/領域番号 24652010
研究機関関西学院大学

研究代表者

柳澤 田実  関西学院大学, 神学部, 准教授 (20407620)

キーワード利他性 / 道徳 / 生態心理学
研究概要

2013年度は、利他性に関する先行研究を検討すると共に、三嶋博之教授(早稲田大学人間科学学術院)のもとでアイマークレコーダの操作方法について学び、主にマイケル・トマセロの人間同士の協力に関する研究を生態心理学的観点から再検討する可能性などについて考察した。三嶋氏には、アイマークレコーダEMR9(NAC)の操作方法とそこで得られる視知覚情報の正確性について直接教授して頂いた。トマセロは、人間には生得的に自らが同族とみなす他人と協力する傾向性、相利性への志向があると主張する。そこで「同族とみなす」というモメント、すなわちトマセロが言うところの'we-ness’の成立を、アイマークレコーダによって記録可能な視知覚の情報に基づき解析できないかと考えた。これと同時に、トマセロら霊長類研究を基盤にする利他性研究の多くが、道徳的行為イコール利他的行為とみなしているが、この前提自体の妥当性を丁寧に検討する必要があることにも気付かされた。「相手のため」のみならず「・・・のため」という志向性が非成立なままの協力や配慮もまた、十分に道徳的である可能性も検討すべきだろう。またこれ以外にも先行する利他性研究の多くが無自覚に前提としている人間観、道徳観を明らかにし、そこに何らかのバイアスがないかを検討する必要もあると思われる。生態心理学的観点からの状況観察は、こうした無自覚の前提を検討するために有効であると予想される。この可能性については、青山慶氏(東京大学)らがイベント単位で他者の意図理解の発達を記述しようとする研究に多くを教えられた。自身が「利他性」という概念によって喚起される先入観にとらわれないためにも、アイマークレコーダによる実験に先立ち、他者を援助あるいは介助する状況のビデオ撮影とその観察から始め、自らが問題としたい現象を絞り込む必要性があるというのが現時点での結論である。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

3: やや遅れている

理由

研究計画の時点では、2013年度にアイマークレコーダによる実験を実施する予定であったが、アイマークレコーダを貸与頂く都合がなかなかつかず、その実験技術の習得が遅れていること、また前述の「研究実績の概要」にあるように、実験対象となる現象をより具体的に絞り込む必要性が生じたことにより、その実施にまで至ることができなかった。文献に基づく先行研究の検討については概ね順調に進んでいると言える。

今後の研究の推進方策

今後は、まず病院やボランティア、そして母子間の援助や介助の場面を撮影し、その映像の観察・分析を行い、自身が問題としたい現象を改めて「知覚」と「環境」という生態心理学的観点から捉え直す作業を行う。これと同時進行で、三嶋博之教授の大学院演習に月に一度のペースで定期的に通い、アイマークレコーダによる実験技術の習得に努める予定である。2014年度中には具体的な実験の実施を行い、研究期間を延長した上で、2015年度に必要であれば実験の再施行した後、その内容の解析と発表を行いたい。

次年度の研究費の使用計画

研究協力者の三嶋博之教授との予定が合わず、早稲田大学人間科学学術院に複数回通うための旅費を使用することができなかったことと、実験方法の習得が遅れたことにより、実験実施が遅れ、当該年度に使用するはずの謝金や実験に伴う経費を使用できなかったことによる。加えて、最も大きな理由としては、研究計画の時点では、企業からレンタルする予定であったアイマークレコーダを三嶋教授から貸与頂けることになったので、レンタル代そのものが不要となったためである。
繰り越した分は、2014年度に、実験方法の習得のために月1回ペースで早稲田大学などに通うための旅費、実験実施に伴う物品費および謝金、海外での資料収集のための旅費、国内学会への出張旅費として使用予定である。

  • 研究成果

    (3件)

すべて 2013 その他

すべて 雑誌論文 (1件) 学会発表 (1件) (うち招待講演 1件) 図書 (1件)

  • [雑誌論文] 家畜の顔、ヒトではないものの顔:ユダヤ=キリスト教における動物の「顔」についての一試論2013

    • 著者名/発表者名
      柳澤田実
    • 雑誌名

      神学研究(関西学院大学神学研究会編)

      巻: 61 ページ: 129-143

  • [学会発表] アートにおける文脈と直接経験

    • 著者名/発表者名
      柳澤田実
    • 学会等名
      シンポジウム「自由について--アートから考える」
    • 発表場所
      東京工業大学大岡山キャンパス
    • 招待講演
  • [図書] 倫理:人類のアフォーダンス2013

    • 著者名/発表者名
      柳澤田実、河野哲也、岡田美智男、佐古仁志、本多啓、森直久、川原由佳里、綾屋紗月、柏端達也、萱野稔人、石黒広昭
    • 総ページ数
      334(267-290)
    • 出版者
      東京大学出版会

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公開日: 2015-05-28  

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