研究課題/領域番号 |
24652013
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
田中 祐理子 京都大学, 人文科学研究所, 助教 (30346051)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 科学主義 / 科学性 / 人間性 / 19世紀 / 20世紀 |
研究概要 |
「研究計画」に従って、今年度の本研究は、①ウィリアム・ヒューエルの科学論の分析、②20世紀初頭にかけての科学主義に関する史資料の収集および分析の2点をおこなった。 とりわけ今年度においては、既に収集されていた資料をもとにした②の分析を先行させて進めた。その際には、研究代表者・田中のこれまでに研究してきた19世紀後半の細菌学史を中心とした西欧における科学史的状況との連関に留意し、当該の時代に発展し確立させられた科学的方法論を特徴づけている性質と、「科学的であること」に新しく与えられることになった意味と価値とが、互いにどのような影響を及ぼしあっているかを考察するように努めた。 そこにおいて本研究が特に注目すべきものとして見出したのは、写真技術を軸とした、実験観察によって得られる知見の可視化の技法の持つ意義である。知見の可視化は科学的知識における「共有」の実態に大きな変革をもたらし、これに伴って、科学的知識の伝播に関して2つの決定的な変化が生じるからである。すなわち、第一には専門的科学者の再生産である科学教育の内容が大きく変化するとともに、第二には、科学的知識の社会的受容、つまりより一般的な「啓蒙」の水準において、人間的な日常経験と認識との関係に重要な変更が生まれることになると考えられるのである。そしてこの変化は、今日における社会と科学的知識との関係を基礎づけている歴史性に深く関わるものと推定される。 なお、さらに特記すべきこととして、この19世紀における知見の可視化の影響は、ヒューエルの論じた「科学性」に対しても、大きなずれを生み出すものであるとも考えられる。このずれから、20世紀の科学的実践を条件づけた特性を探ることが今後の課題として発見された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
上記「研究実績の概要」に記した通り、本研究は今年度、研究代表者・田中のこれまでの研究成果との関連から、特に20世紀にかけての科学主義と科学史的展開との関係に焦点を置いた分析を先行させた。これによって19世紀西ヨーロッパを中心に発展した新たな科学的知見の共有の形式と、科学性の意味と価値との変化について、具体的な経験の水準で考察する手がかりを整理することに着手できたことは、計画時の想定を超える成果であったと考えられる。 しかしながらその一方で、今年度はヒューエルの論じた「科学性」を分析するという作業の進行は計画よりも遅れてしまった。これにより、19世紀後半以降に展開される科学的実践への洞察をより包括的に支えるべき、19世紀初頭における科学的実践への理解が不十分なままに留まってしまったことは否めない。上に述べた20世紀的な科学的実践および科学性の特性をより正しく把握させるべきものである、19世紀初頭の科学的実践および科学性への同時代的な認識と価値づけとをより詳細に整理し、さらにこれを18世紀の科学性とも比較しながら理解していくことが、本研究の次の課題である。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題は、今後も研究課題申請時の「研究計画」に基づきながら、史資料の収集と分析、そして分析結果の発表と検討に努めていくものである。その際には、上に記した通り、以下の2つの作業を並行して進めていくこととなる。すなわち、(I)ヒューエルの科学論に見られる19世紀初頭の西欧における科学性を理解するとともに、これを18世紀啓蒙主義における科学性との関係から把握すること、および(II)19世紀後半以降展開される科学的実践と科学性の諸相と、20世紀における科学認識論を中心とする科学論の論点とを分析すること、の2点を目的とした作業である。 これらの作業をおこないつつ、本研究は「研究計画」に従って、本年度以降は対象とする資料の範囲をさらに拡大し、狭義の科学論として捉えられる文献と、哲学的な文献との両方について、「科学的」と「人間的」という概念の変遷とその生成過程における相互作用を辿る。そこではユルゲン・ハーバーマスの思想史的整理を参照しつつ、本研究の分析の対象である19世紀から20世紀の哲学史展開それ自体の一つの所産でもある、ガストン・バシュラールからジョルジュ・カンギレムおよびミシェル・フーコーへと連なるフランス科学認識論の問題構成についても検討する。これによって本研究は、諸概念の変貌と分離・対立の様相と科学論的問題設定との相関関係も含めて問うことが出来るよう努める。 そのうえで、本研究は最終的にこれらの作業を統合し、ひとつの「科学性の哲学史」を提出することを目指すものである。
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次年度の研究費の使用計画 |
該当なし
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