研究課題/領域番号 |
24652013
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
田中 祐理子 京都大学, 人文科学研究所, 助教 (30346051)
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キーワード | 科学性 / 人間性 / 科学認識論 / カンギレム / カント哲学の受容 / ニーチェ哲学の受容 |
研究概要 |
研究計画に従い、本年度も前年に引き続き19世紀から20世紀を通して現代科学認識論を形成することに寄与し、かつ特にそこにおいて「科学的」と「人間的」という概念の形成と変遷に関係したと考えられる関連資料の収集を進めた。書誌的整理としては、以下の2つの系譜への分類が本研究課題の推進に有効であるとの結論に達した。すなわち、①「科学論」的系譜:「科学的営為」の定義とその振興を主張した言説群であり、科学史記述と科学哲学の基礎的構造を形成したもの、および②19‐20世紀転換期におけるカント人間学の受容の分岐と交錯から「認識論」を独自に主題化した言説群、の2つの系譜である。この2つの思想史的系譜の伸長と展開を整理した上で、これらの思想がさらに同時代および後代の言説によって受容される際に、概念上での混同や問題構成上での跳躍が発生していなかったかを丹念に跡付けることが必要であると考えられる。 また本年度は、前年度までの史資料の収集と整理を進めたことを踏まえ、その言説分析の作業に主に力を注いだ。上記の書誌整理における系譜設定上の修正にも大いに関連することとして、カント人間学が端緒を開いた認識論的問題の展開が、同時代の自然科学研究の独自の進展と対峙し、影響されながら、独自の主体論として哲学史上の重大な局面を形成していく経緯をより詳細に辿る必要があることを発見した。具体的には、フランス科学認識論の源泉にカント哲学とニーチェ哲学双方に対する応答の努力を読み取ることの意義の大きさが確認されるとともに、これらの応答の意図が次世代によって必ずしも理解されていなかったことから生じたテクスト読解のずれが、20世紀における科学論の展開に重要な影響を与えたという思想史的見取り図を立てるに至った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は19世紀を中心的な舞台として、西欧思想に確立された「科学的であること」の価値の基本構造を探るものであり、①近代思想における「科学的」及び「客観的」という概念と、「人間的」という概念について、その内容と変遷を思想史的に分析すること。②その上で、これらの概念の間に形成された相互関係を明らかにすることの二点を目指している。また、この2つの分析を通して本研究は、現代社会全体に大きな影響を与えている価値観である「科学的であること」と「客観的であること」の包括的な問い直しを試みるものでもある。申請書に記した「研究の目的」の通り、本研究の最も大きな目標は、本来きわめて人間的な行為であった哲学・思想が、19世紀から20世紀にかけての現代史を背景にいかに「人間的であること」の限界を超えようとしたかを問い、またこれを基盤として、現代における「科学」をめぐる社会的諸問題の起源を明らかにすることである。 これらの目的に即して本研究では、a.ウィリアム・ヒューエルを中心に科学史・科学論が形成され発展する過程、および b.フランス科学認識論とドイツ批判科学を中心とした現代科学論哲学の展開、の思想史の2つの潮流の言説を系統的に収集し、その分析を行ってきたが、昨年度の資料収集の遂行から本年度については上記「実績の概要」に記した通りに20世紀への世紀転換期にかけてのフランス哲学とドイツ哲学の極めて交錯の持つ重要性を探究するに至り、当初の目的に沿い、かつ当初の過程的視座を発展的に拡大するような進展を達成している。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度は本研究の最終年度にあたり、研究計画に記した通りに史資料分析をさらに深めるとともに、上記の本年度の「研究業績の概要」に述べた努めた視座設定の修正点および今後の課題点とを踏まえた上で、これらの分析を総合的に整理して広く公表できる形にすることに力を注ぐ。 そのため、年度前半は特に史資料分析とその論点整理を大きく進めることに努める。そして分析全体をまとめた形での口頭発表や論文公表という研究発表の機会を持つようにし、関連書誌の段階的公表とともに、他の研究者からの検討も受けつつ研究全体の最終的な見直しを行う予定である。これらの作業を進めた上で、本年度の終わりまでには、研究成果の総合的な記述を完成するように努める。 なお、上記の史資料収集および他の研究者との意見交換に関しては、平成26年度はフランス・パリおよびアメリカ・ボストンでの研究活動も含めてできる限り広い範囲での機会を確保していく予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度においては史資料に関わる物品費の支出が中心となり、ほぼ計画通りに研究を進めた。フランスの書店より購入した図書の到着が遅れ、年度内での購入手続きが不可能であったため、4,011円分については次年度での使用とした方がよいと判断した。以上の理由により、当該の次年度使用額が生じた。 図書一冊の購入に使用する。
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