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2012 年度 実施状況報告書

古代ギリシア・ローマ美術史における「祈り」の図像に関する社会学的考察

研究課題

研究課題/領域番号 24652018
研究種目

挑戦的萌芽研究

研究機関筑波大学

研究代表者

長田 年弘  筑波大学, 芸術系, 教授 (10294472)

研究分担者 篠塚 千惠子  武蔵野美術大学, 造形学部, 教授 (80279801)
研究期間 (年度) 2012-04-01 – 2015-03-31
キーワード美術史 / 古代史 / 西洋古典 / 考古学 / 宗教学 / キリスト教 / 美学 / 哲学
研究概要

古代ギリシア・ローマ美術史において、片手ないし両手を上げる仕草は、広い意味での「祈り」を表す図像として知られる。この身振りは、ギリシア美術において元来、命乞い等の「嘆願」の仕草としてしばしば用いられ、女性、子供などの社会的弱者による「臆病な」振る舞いを表していた。しかし同様の図像は、ギリシア時代の「崇拝」の図像を経て、ローマ時代の「祈り(オランス)」図像に帰着する。
ネガティブな「嘆願」が、ポジティブな「祈り」に転用された現象を解明し、古代における「祈り」図像の成立について、しばしば祈りの主体として表された女性像を手がかりに女性学の立場から照明を当てるため、新しい社会学的な問題提起を試みた。
(1)2012年6月30日に、筑波大学芸術系棟B203において、第1回研究例会を行った。参加者 長田 年弘 河瀬 侑 小堀 馨子 坂田 道生 篠塚 千恵子 高橋 翔 田中 咲子 中村 友代 中村 るい 福本 薫 山本悠貴。趣旨説明 長田年弘。研究発表 河瀬 侑(筑波大学大学院人間総合科学研究科芸術専攻博士前期課程)「「ハルピュイアイの墓」―前五世紀リュキア地方の葬礼美術」
(2)2013年2月2日に、東京藝術大学中央棟において、第2回研究例会を行った。参加者 長田 年弘 小堀 馨子 坂田 道生 篠塚 千恵子 高橋 翔 田中 咲子 中村 るい。研究発表 小堀馨子「古代ローマ人の宗教の特質 ―religio概念を手掛かりとして―」。また、東京藝術大学アートプラザにおいて、「The Greek Body」展見学と中村るい(東京藝術大学・非常勤講師)によるガイダンスを行った。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

(1)2012年6月30日の筑波大学芸術系における第1回研究例会において、研究課題の趣旨に関して共有し、次いで、前5世紀リュキア地方の葬礼美術「ハルピュイアイの墓」を取り上げて、古代ギリシアにおける嘆願図像について討議を行った。古代ギリシア、ローマ美術史に表現された死生観について、構成員全体によって問題点を共有し検討することができた。(2)2013年2月2日の東京藝術大学美術学部における第2回研究例会において、小堀馨子の発表により、古代ローマ人の宗教の特質について全体討議を行った。古代ギリシア宗教とローマ宗教を比較することにより、死生観の相違、「祈り」の意味の異同等について、具体例を挙げて検討することができた。主に文献学上の資料を元にしたこれらの考察を、美術表現においても検討していくことが今後の課題として浮かび上がった。また、同日、東京藝術大学アートプラザにおいて、「The Greek Body」展を見学し、併せて、中村るいによるガイダンスを行い、古代ギリシア美術に表現された身体美学について討議を行った。古代ギリシア美術における浮彫と丸彫り彫刻の技法と構図の異同について討議を重ねた。

今後の研究の推進方策

古代ギリシア・ローマ美術史における、広義の「祈り」(「嘆願」、「崇拝」、「オランス」)図像について、作例の検討を進める。特にギリシア時代の「嘆願」と、ローマ時代の「オランス」に、女性を「祈り」の主体とする作例数が非常に多いことに着目し、社会的弱者の「祈り」と、道徳等の社会規範との関わりに目を向ける。小堀馨子(古代宗教史)は専門的見地から論点を提供し、「命乞い」などのネガティブな価値判断を与えられた「嘆願」図像が、「敬虔さ」を表すポジティブな「崇拝」および「オランス」図像に転用された経緯について、「婦徳」等の社会学的観点から検討を行う。突破口となるのは、各作例における「祈る者」の特定と思われる。近年の、「古代宗教と女性」に関する非常に活発な議論を背景に、篠塚千恵子と中村るいによる女性学に関わる研究を軸に進める。古代ギリシア美術史、古代ローマ美術史、古代ローマ宗教史のそれぞれの専門を活かした共同研究とし、古代における「祈り」の概念成立の解明を試みたい。

次年度の研究費の使用計画

2012年度は、長田、田中、篠塚が、アテネ、ロンドンにおける古代ギリシア美術史研究の実地調査を行うために旅費として予算を執行した。また小堀が研究に必要な文献を購入した。2013年度は、小堀、田中、中村が、美術史研究のために旅費として執行し、長田が必要に応じて物品および研究書購入のために執行する予定である。

  • 研究成果

    (25件)

すべて 2013 2012

すべて 雑誌論文 (11件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (13件) (うち招待講演 1件) 図書 (1件)

  • [雑誌論文] 「記憶」と「敬虔」の径庭―アクロポリス奉納文化におけるパルテノン・フリーズ2013

    • 著者名/発表者名
      長田年弘
    • 雑誌名

      西洋美術研究

      巻: 17 ページ: 印刷中

  • [雑誌論文] Wohlmayr, W., Die römische Kunst, Darmstadt, 2011.(書評)2013

    • 著者名/発表者名
      坂田道生
    • 雑誌名

      西洋古典学研究

      巻: 61 ページ: 149-152

  • [雑誌論文] トロス司教座聖堂発掘報告(2012)-聖堂装飾(レリーフ、フレスコ)を中心2013

    • 著者名/発表者名
      田中咲子
    • 雑誌名

      史苑

      巻: 73 ページ: 印刷中

    • 査読あり
  • [雑誌論文] 大英博物館<パルテノン・ナウ> -神々の立体復元模型の制作と展示-2013

    • 著者名/発表者名
      中村るい
    • 雑誌名

      Minervium 2013 ―授業研究報告集10―

      巻: 10 ページ: 45-58

  • [雑誌論文] Die Entmythologisierung des Alexandermosaiks an der Darstellung des Dareios2012

    • 著者名/発表者名
      Toshihiro Osada
    • 雑誌名

      Akten des 13. Oesterreichischer Archaeologentag. Klassische und Fruehaegaeische Archaeologie. Paris-Lodron-Universitaet. Vom 25. bis 27. Februar 2010

      巻: 13 ページ: 145-152

  • [雑誌論文] パルテン・フリーズ-贅美を尽くした捧げ物2012

    • 著者名/発表者名
      長田年弘
    • 雑誌名

      藝叢

      巻: 28 ページ: 1-10

  • [雑誌論文] ポンペイとその周辺におけlarariumの図像について2012

    • 著者名/発表者名
      坂田道生
    • 雑誌名

      鹿島美術研究

      巻: 29 ページ: 238-246

  • [雑誌論文] 桑山由文「ハドリアヌス以後のアテネ:ローマ帝国支配下における「復興」とその実態」に対する報告批判2012

    • 著者名/発表者名
      坂田道生
    • 雑誌名

      歴史学研究

      巻: 900 ページ: 50-51

  • [雑誌論文] パルテノン神殿のフリーズ彫刻について2012

    • 著者名/発表者名
      中村るい
    • 雑誌名

      世界史の研究

      巻: 232 ページ: 24-31

  • [雑誌論文] パルテノン以前の身体表現2012

    • 著者名/発表者名
      中村るい
    • 雑誌名

      五浦論叢

      巻: 19 ページ: 25-44

    • 査読あり
  • [雑誌論文] パルテノン・東フリーズの12神―立体復元模型の制作―2012

    • 著者名/発表者名
      中村るい
    • 雑誌名

      Minervium 2012 ―授業研究報告集9―

      巻: 9 ページ: 64-73

  • [学会発表] オウィディウス『祭暦』におけるパリリア祭の記述とロムルスの建国神話2013

    • 著者名/発表者名
      小堀馨子
    • 学会等名
      ギリシア・ローマ神話学研究会
    • 発表場所
      大阪大学(大阪府)
    • 年月日
      20130216-20130216
  • [学会発表] 共和政期ローマの宗教のかたちとreligio2013

    • 著者名/発表者名
      小堀馨子
    • 学会等名
      第2回研究例会科研費「古代ギリシア・ローマ美術史における「祈り」の図像に関する社会学的考察」
    • 発表場所
      東京藝術大学美術学部(東京都)
    • 年月日
      20130202-20130202
  • [学会発表] 美術史学:全ては見ることから ― 鑑賞教育への一提言2013

    • 著者名/発表者名
      田中咲子
    • 学会等名
      新潟大学美術教育研究会 研究大会
    • 発表場所
      新潟大学(新潟県)
    • 年月日
      20130126-20130126
  • [学会発表] 古代ギリシア美術史研究の現在 ― 墓碑浮き彫りを中心に2013

    • 著者名/発表者名
      田中咲子
    • 学会等名
      19 世紀学学会
    • 発表場所
      新潟大学(新潟県)
    • 年月日
      20130112-20130112
  • [学会発表] ギリシャ美術と人体2013

    • 著者名/発表者名
      中村るい
    • 学会等名
      日本美術解剖学会2012年大会
    • 発表場所
      東京芸術大学(東京都)
    • 年月日
      20130107-20130107
  • [学会発表] コンスタンティヌスの凱旋門の《ハドリアヌスの円形浮彫群》について―犠牲式図像の伝統に照らして2012

    • 著者名/発表者名
      坂田道生
    • 学会等名
      第11回古代史研究会大会
    • 発表場所
      京都大学(京都府)
    • 年月日
      20121216-20121216
  • [学会発表] パルテノン・フリーズ浮彫における女性とメトイコイ-「民主政賛歌」説の批判2012

    • 著者名/発表者名
      長田年弘
    • 学会等名
      西洋史研究会大会
    • 発表場所
      東北大学(宮城県)
    • 年月日
      20121111-20121111
    • 招待講演
  • [学会発表] パルテノン以前の身体と空間―クラシック初期の展開2012

    • 著者名/発表者名
      中村るい
    • 学会等名
      古代世界研究会サマーセミナー
    • 発表場所
      東洋大学(東京都)
    • 年月日
      20120922-20120922
  • [学会発表] トロス遺跡とリュキア地方の古代・中世2012

    • 著者名/発表者名
      田中咲子
    • 学会等名
      パ レーシア会
    • 発表場所
      名古屋大学(愛知県)
    • 年月日
      20120825-20120825
  • [学会発表] トラヤヌスの記念柱の犠牲式図像に関する一考察―場面86-87, 98-99の主題解釈を中心に2012

    • 著者名/発表者名
      坂田道生
    • 学会等名
      古代史の会7月定例会
    • 発表場所
      東京大学(東京都)
    • 年月日
      20120705-20120706
  • [学会発表] 2012年秋の大英博物館における日本の展示について2012

    • 著者名/発表者名
      中村るい
    • 学会等名
      2012年度第1回研究例会科研費「パルテノン神殿の造営目的に関する美術史的研究―オリエント美術の受容と再創造の検証」
    • 発表場所
      筑波大学芸術系(茨城県)
    • 年月日
      20120630-20120630
  • [学会発表] Ist der Parthenonfries sinnbildlicher Ausdruck des athenischen Imperialismus?2012

    • 著者名/発表者名
      Toshihiro Osada
    • 学会等名
      14. Oesterreichischer Archaeologentag in Graz,
    • 発表場所
      Karl-Franzens-Universitaet Graz(オーストリア共和国)
    • 年月日
      20120420-20120420
  • [学会発表] Die archaischen Athletenstelen – Die Entwicklung der Bildtypen2012

    • 著者名/発表者名
      Emiko Tanaka
    • 学会等名
      14. oesterreichischer Archaeologentag
    • 発表場所
      Karl-Franzens-Universitaet Graz(オーストリア共和国)
    • 年月日
      20120420-20120420
  • [図書] 古代地中海世界の歴史2012

    • 著者名/発表者名
      中村るい 本村凌二
    • 総ページ数
      271
    • 出版者
      筑摩書房

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公開日: 2014-07-24  

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