古代ギリシア・ローマ美術史において、片手ないし両手を上げる仕草は、広い意味での「祈り」を表す図像として知られる。この身振りは、ギリシア美術において元来、命乞い等の「嘆願」の仕草としてしばしば用いられ、女性、子供などの社会的弱者による「臆病な」振る舞いを表していた。しかし同様の図像は、ギリシア時代の「崇拝」の図像を経て、ローマ時代の「祈り(オランス)」図像に帰着する。ネガティブな「嘆願」が、ポジティブな「祈り」に転用された現象を解明し、古代における「祈り」図像の成立について、新しい社会学的な問題提起含む共同研究を行った。古代ギリシア美術史、古代ローマ美術史、古代ローマ宗教史のそれぞれの専門家によって、古代における「祈り」の概念の成立を解明する一助とした。 平成26年度の研究成果は、以下のとおり。1. 2014年6月29日に、第4回研究例会を行った。研究発表、森園敦(長崎県美術館)、 田中咲子(新潟大学教育学部)。2015年3月21日に、第5回研究例会を行った。研究発表、小堀馨子(成城大学文芸学部他)、坂田道生(千葉商科大学商経学部)。2. 平成24年度~平成26年度 科学研究費補助金 挑戦的萌芽研究 研究成果報告書『古代ギリシア・ローマ美術史における「祈り」の図像に関する社会学的考察』(2015年3月)を編集刊行した。専門研究者139名に送付したほか、学会等において配布する予定。3. 今後の研究の展開について、西洋研究者とは異なる視点を重要視し、東海大学(台中市)、香港大学等の東アジアの古代ギリシア美術史研究者、古代ギリシア史研究者に研究協力の依頼を開始した。
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