「絵巻学」の創成に向けた基盤を構築するため、多様な角度から調査分析と発表を行い、国際的に成果を発信した。本年度は、『日本美術史』『日本美術全集』『岩波講座日本歴史』など、通史、全集、講座に論考を発表し、日本美術史と日本史にまたがる絵巻研究の回顧と今後の研究の見通しを示した。『日本美術全集』(小学館、2004年)では、室町時代のやまと絵の展開を述べる中で絵巻に字数を割き、全集図版の編集作業では、従来の全集とは異なる中世絵巻の選択を試みた。『岩波講座日本歴史』(岩波書店、2004年)においては、室町時代の文化史について述べる中で、中世を通じた絵巻の様式展開、絵師の画風形成、繰り返される古典再生のメカニズムを説いた。いずれも、最先端の研究内容をもとにした啓蒙的な性格の書籍であるが、豊富な図版の使用、日本史・日本文学との協業を通じて、中世文化の中における絵巻の位置づけを明確にした。 国際発信では、ブラジル、韓国など日本美術史の研究が勃興しつつある地域の学会において、基調講演の形で絵巻学について述べ、海外での絵巻理解の基盤形成をめざしている。 3年間の研究期間を通じて、個別の絵巻の作品研究、米国所蔵絵巻の研究、欧州における絵巻研究者とのシンポジウム開催、美術館での絵巻関連展覧会への協力と図録論考執筆、国内外の学会(美術史学会、CIHA国際美術史学会)での発表を並行して行った。また、英語による論文を複数発表した。引き続き、国内外の研究者と連携しつつ、絵巻学の確立に向けて基盤整備を続けていく必要がある。
|