最終年度の主たる研究内容と実績は以下のとおりである。 (1)前年度までの調査に引き続き、資料の収集読解を続行した。一次資料に関しては、フランスに関しては、断片的ながらも輸送に関する情報をかなり拾えることが判明していたので、比較対象としてイギリスの状況を確認することとした。ロンドンのウィット・ライブラリでの画像資料調査、ウォレス・コレクション並びにナショナル・ギャラリーでの画商やコレクターの手紙の調査を行ったが、具体的な記述は見いだせなかった。結果として、フランスを基準として状況をまとめる方針を固めることが出来た。(2)二次資料については、日本国内だけでなく、ヴァールブルク研究所図書館などでも調査を重ねた。前近代の美術品の移動について実際的なレベルで追求したものは見いだせず、今回のテーマについてほぼ具体的な先行研究は存在しないことが改めて確認された。(3)試行錯誤の結果、断片的な情報の集積しか方法はないことが明らかとなったものの、一体性のある文献群を包括的に調査することが、説得力のある研究とするためには必要であると考え、日本ではほぼ未紹介の文書を調査することとした。パリの国立古文書館で、10日間にわたり、ローマのフランス・アカデミーの支出記録、領収書、フランス革命時の外国での作品輸送記録などの一次資料を実見し、できうるかぎり撮影した。主に手書き資料であるため、解読には時間がかかっているが、作品の梱包や輸送ルートに関する言及もある。 研究期間全体を通して総括すると、結果的に文献調査が中心となり、主たる成果は、最終年度に撮影を行ったパリ―ローマ間、フランス―ヨーロッパ各国間についての古文書の読解になる見通しである。前近代の美術品輸送について、具体的・実際的なレベルでの研究がほぼ不在である状況下では、一定の意義があると考えたい。
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