研究課題/領域番号 |
24652031
|
研究種目 |
挑戦的萌芽研究
|
研究機関 | 富山大学 |
研究代表者 |
三船 温尚 富山大学, 芸術文化学部, 教授 (20181969)
|
研究分担者 |
長柄 毅一 富山大学, 芸術文化学部, 准教授 (60443420)
|
研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
|
キーワード | 青銅鋳造製品 / 木材原型 / 失木鋳造実験 / 東大寺八角燈籠 / 中国北方系青銅器 / シベリア青銅フク |
研究概要 |
古代鋳造技法は、土で原型を作り分割鋳型で外型を作り、原型を削って鋳造する分割技法と、常温で固体で低温加熱で液化する蝋などの油脂で原型を作り分割しない鋳型で鋳造する蝋型法の2通りの方法が考えられている。ところが、これまで、蝋型や分割型では説明のつかない鋳造製品があり、その技法について、見過ごされてきた。むしろ、考える術がなかった。これは、古代技法は蝋型法か分割型法という二者択一で全てを考えてきたためであるが、中国あるいはシベリア古代青銅フクの鋳造技法を、考古学者と鋳造技術者が共同で鋳造実験する中で、動物油脂の代わりに木材を原型にする手法が提案され、基礎実験を試みた。5片の小木棒を土に包み加熱燃焼し鋳造する基礎実験を行った。そのうち1つだけ鋳型内を空気が通る仕組みにしたが、これだけが鋳造が成功し、他は木が炭化し消失せず失敗した。しかし、燃焼率を高めれば成功することが分かり、国宝東大寺八角燈籠、中国北方系青銅器の糸巻紋獣頭金具、糸巻紋刀子、双尾形金具、ボタン状金具、格子紋柄短剣、駱駝形帯飾板、シベリア青銅フクの縄目紋など、蝋以外の木や実際の縄を原型として焼失させる技法が古代に存在したのではないかという予測を立てた。 長さ30センチの角棒を原型とした失木鋳造の展開実験を経て、高さ60センチの枠型木原型による失木鋳造の応用実験を行った。これらは、鋳型内を空気が通過する鋳型ばかりではなく、湯口のみの鋳型もあった。結果湯口のみのものでも、800度前後を通常の3倍の時間を掛ければ木は焼失することが明らかになった。その後、ケイ素を多く含むもみ殻は500度の低温で長時間燃焼すれば焼結が防げることなども知り、木の焼失条件は高温超時間でなくても良いのではとの発想を得た。考古学者、鋳造技術者でこの成果を論文として発表した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
実験により、失木鋳造を成功させることが第1段階の目的であった。基礎実験、展開実験、応用実験と、実験試料を徐々に大きくさせての実験で、全てにおいて、鋳造が成功した。このことにより、古代に失木鋳造法が存在した可能性が高くなり、これ以後の調査研究に確信を得ることができた。成功には高温長時間鋳型焼成がカギとなったが、このことにより、通常よりも鋳型の亀裂が多く入り、鋳造品としては荒れ肌になる。もみ殻焼成の研究情報から、低温(約500度)長時間でも焼失する可能性があり、継続した実験が必要である。しかしながら、成功した事実は今後の古代鋳造技法研究に大きな成果を残すことができた。 木の原型だけではなく、実際の縄などの原型による焼失鋳造法存在の可能性も高まり、古代鋳造技法の捉え方も広がった。3回の小失鋳造実験報告、古代青銅製品で焼失鋳造法の可能性が高い製品の考察、シベリアフクの縄紋鋳造の焼失法の可能性など、これまで、不明であった製品の鋳造技法の考察を含め、アジア鋳造技術史学会誌4号(2012年9月発行)に3本の論文、研究ノートを発表した。アジア鋳造技術史学会誌5号(2013年1月発行)に中国北方系青銅フクの把手の焼失法の可能性、紙を原型とする失紙鋳造法の実験報告の2本を論文、研究ノートに発表した。また、中国青銅器のユウの釣手の鋳造に焼失鋳造法を用いた可能性を、アジア鋳造技術史学会研究発表概要集6号に発表した。さらに、連携研究者と調査し、ユウの釣手を5式に区分し、それぞれの鋳造方法を解明し、その技術変遷を明らかにした。この論文はアジア鋳造技術史学会誌6号に投稿し、査読を受けている。 このように実験で成果が上がり、1年間で、関連する幅広い論文、研究ノート計5本と口頭発表1本を発表し、成果を上げた。
|
今後の研究の推進方策 |
巨大青銅器においても焼失法は用いることができるのかという検証を行う。日本の古代の鋳造品は銅鐸や仏像などに見られるように、正確な幾何学形態のものはない。少し揺らぐ手作りの形状である。鏡は回転運動を利用した円で構成される形態で、数少ない幾何学形態の製品である。しかし、直線的形態、直角交差形態のものはほとんど見られない。その中で、東大寺八角燈籠は8世紀に造られた直線、直角形態で、かつ巨大である。前年度までの失木法の実験からは、木材の指しもの技法を用いた木原型を焼失した鋳造品の可能性が考えられる。 やわらかいロウ原型では正確な直線・直覚が作れないことや、土原型の分割型法であれば、無数の分割痕跡が現れることなどから、八角燈籠のこういった形状計測を科学的に行う方法として、三次元レーザー計測を行う。既に平成24年度に東大寺の計測許可を得ており、その許可によって、奈良市教育委員会の計測に係る現状変更許可も得ている。計測に使用する2種類のレーザー計測器の選定も終了している。また、2種類(近距離用、遠距離用)の計測器を設置する足場も図面が完成しており、この2社の打ち合わせも進んでいる。 三次元レーザー計測は太陽光線の無い日没後、晴天、無風の条件がそろう日におこなう。現時点では、平成25年8月ころに実施する計画で進めている。 計測後は、ポリゴン図、断面図などを作成し、直線度、直角度を計測する。これにより、八角燈籠研究の基礎データとなる科学的形状計測を遂行する。
|
次年度の研究費の使用計画 |
三次元レーザー計測経費と、計測時に機器を設置する足場経費で、繰り越した金額を含めた年間経費の85パーセントを執行する。計測に係る出張費、知的情報提供、資料整理謝金などで、残り15パーセントを使用する。
|