最終年度報告にあたり、本年度の研究成果を含めて研究概要を述べる。本研究は、西洋古典インク(没食子インク)の欠点を克服し、日本風土を生かした独自の没食子インクを開発することで、芸術作品の制作と美術教育への貢献をめざすものである。 研究内容及び方法は以下の通りである:1)高知県、中国地方及び九州地方で、どんぐり種の虫こぶを採取し、採取した虫こぶからタンニン酸を抽出し、加熱濃縮した。26年度は、種々の虫こぶ中のタンニン酸を定量し、虫こぶによる含有量の差異を明らかにした。2)古代エジプトの装飾用の絵具処方(蜂蜜入り)にヒントを得て、蜂蜜をインクに添加したが、乾燥が遅く不適であることが分かった。3)インクの付着力強化のために膠水を混ぜるが、20 ℃以下の外気温で使用可能な没食子インクにするために、膠水のタンパク質限定分解物を用いた。4)製造したインクがブルーブラック色として安定する中性紙等の選定を行なった。また、不燃紙に於いて使用可能か否かを評価した。5)美術教育授業(附属中学校、教育学部等)において、没食子インクと羽根ペンの素描を行い、ペン画を体感することでその可能性や教育効果を見出した。6)本インクを用いた際の羽根ペンの筆感を調べるために、インク線による「1/fゆらぎ」の計測実験を行った。7)海外学術調査により、紙・羊皮紙・インク退色等の資料取集を行った。 このように、和製没食子インクを独自に製造開発することが可能になったことで、美術教育の現場に安価で高品質なインクを供給できる道を開くことができた。
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