研究課題/領域番号 |
24652036
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 高知大学 |
研究代表者 |
野角 孝一 高知大学, 教育研究部人文社会科学系, 講師 (50611084)
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研究分担者 |
平 諭一郎 東京藝術大学, 大学院美術研究科, 助手 (10582819)
荒井 経 東京芸術大学, 美術研究科, 准教授 (60361739)
松島 朝秀 高知大学, 総合教育センター, 特任准教授 (60533594)
高林 弘実 京都市立芸術大学, 美術学部, 講師 (70443900)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 支持体 / 絵金 |
研究概要 |
本研究は描くもの(絵具)と描かれるもの(支持体)との関係性の中で、特定の支持体でしか表現できない絵画表現の独自性を再評価することが目的である。既存の絵画様式ではなく、制作者としての視点や原料や製法から絵画表現を帰納的に検証することによって、新たな視点から絵画における支持体と表現の関係性を明らかにする。そのために当初の計画に修正を加え、今年度は大きく4つの観点から研究に取り組んだ。 まず1つ目として、洋画用和紙の実態調査を行った。大正末期に開発されたと考えられる洋画用和紙については、高知県いの町紙の博物館に所蔵されている「油画用紙」に注目し、熟覧調査および光学顕微鏡による材料分析を行った。「油画用紙」においては高知県立紙産業技術センターにご協力いただき、分析によってほぼ100%に近い割合で楮繊維であるという結果が今回の調査で初めて判明した。2つ目として昭和初期から戦後までの支持体調査を行った。研究分担者である荒井経氏を中心として明治から昭和戦前期までの日本画表現の変遷について技法書及び商品目録等を通して検証した。3つ目として、絵金作品における科学的調査及び熟覧調査を行った。高知県立美術館主催「大絵金展」にあたって、研究分担者である松島朝秀氏を中心として、作品の科学的調査および熟覧調査を行った。作品の表現による違いと仕立て方法による違いによって絵金作品の描かれた時期などを体系づけることが出来る可能性が今回の調査によって判明した。4つ目として、国画創作協会作品の文献調査を行った。大正末期から昭和初期へかけて登場する巨大和紙以前の日本画における表現と支持体の関係性の中で、注目すべきは国画創作協会とその関連作家である。文献調査を行った結果、その中で特に野長瀬晩花や、山口華楊、秦テルヲなどの綿布や麻布を支持体とした作品が洗い出され、今後の研究対象として注目している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
①洋画用和紙の実態調査:高知県いの町紙の博物館に所蔵されている「油画用紙」の調査では、分析によってほぼ100%に近い割合で楮繊維であるという結果が今回の調査で初めて判明し、一定の成果は得られた。しかしその製法は不明であるため、この「油画用紙」を基にその製法についても明らかにし、明治神宮聖徳記念絵画館収蔵の和田三造『大葬』に用いられたと考えられる「油画用紙」における支持体と表現の関係性についても、今後研究対象としたい。 ②近代日本画の支持体調査:研究分担者である荒井経氏を中心として明治から昭和戦前期までの日本画表現の変遷について技法書及び商品目録等を通して検証した。その結果を踏まえ、日本画表現の変遷を支持体から検証するためには、絵絹の状況、麻紙以前の日本画用麻紙や、画仙紙、ドーサ引きの有無等による検討も必要となる。そのための基礎資料としての意義が大きい。 ③絵金作品の科学的及び熟覧調査文献調査:研究分担者である松島朝秀氏を中心として、様々な調査を行った。その成果は「絵師・金蔵生誕200年記念 大絵金展」の公式カタログ『絵金 極彩の闇』に収録された。そのカタログは全国135館が加盟する美術館連絡協議会の「2012年優秀カタログ賞」を受賞し、本研究の成果として位置づけられる。 ④国画創作協会出品作の文献調査:国画創作協会に出品された作品は、綿布や麻布などこれまで日本画の支持体にはない材料が導入されている。またその絵画表現も作家それぞれが西洋画を意識した多様な表現となっている。特に創立に関わった野長瀬晩花や、その後輩である山口華楊、親交のあった秦テルヲなどの綿布や麻布を支持体とした作品が調査により判明した。平成25年度、それらの作品を中心に熟覧および科学的調査を行う予定であるが、本年度はその準備段階として、予備調査として文献収集に重点を置いた。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度の研究成果を基にして、平成25年度は以下の通り、3つの観点から研究を進めていく。 ①絵金作品調査:今年度の絵金作品の調査によって、作品を仕立て方法、支持体である紙の大きさと継がれ方、人物等の表現方法、作品に用いられた遠近法、絵具の種類など、描かれた年代等が体系化できる観点がいくつも判明した。また絵金が手掛けたと思われる絵馬数点が近年発見され注目している。これらの作品を含め、支持体が変わることによって表現がどのように変わるのかという観点を重視し、熟覧調査や科学的調査を通して、絵画としての表現や絵具の分析などを行い、絵金作品の体系化を行っていく予定である。 ②京都市絵画専門学校関係者における文献による日本画作品の支持体調査:平成24年度の文献調査により、京都市絵画専門学校の関係者に絹や紙以外の支持体を用いた表現が見られることが判明した。しかしそれらの支持体が使われるようになった経緯については未だ不明のままである。平成25年度はその経緯についても、画系や展覧会資料などを基に引き続き文献調査によって検証していく。 ③国画創作協会およびその周辺における作品の熟覧および科学的調査:平成24年度の文献調査、および平成25年度における②の調査を踏まえ、平成25年度では熟覧および科学的調査を行う。筆者は特に綿布において従来の和紙を用いた日本画で行われているようなドーサ引きの効果と異なることを研究の中で明らかにしてきた。そういった経緯を踏まえ、綿布や麻布の特徴がどのように考慮されて制作されたのか、またその技法が野長瀬晩花の作品やその周辺作家の作品において表現の特徴や絵具の扱い方、滲み止めの効果など共通点が見出させるのかなどについて、単なる表現様式による分類ではない制作者としての立場と科学的側面による多面的な視点から、実際に作品を調査することによって検証する。
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次年度の研究費の使用計画 |
当初予定していた支持体調査を見直し、平成24年度は実際の調査のための事前調査として文献調査に時間を費やした。そのため平成25年度の旅費等捻出のために平成24年度分の予算を繰り越すこととした。
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