研究実績の概要 |
フィロストラトス『エイコネス』(絵たち)に関する研究は、従来主として次の二つの関心から行われてきた。一つは古典文献学の側から、いわゆる第二期ソフィストの弁論における修辞学の文献の一つとして。二つにはルネサンス以降の絵画史の側から、『エイコネス』のエクフラシス(美術作品の修辞的記述)と、それに基づいてティツィアーノやプッサンが描いた絵画との比較への関心からである。 しかし何よりも最初になされるべき研究、すなわち『エイコネス』に記述された計80数点の絵画と、古代遺品の図像との体系的な比較照合は最近まで行われなかった。古代遺品の整理分類が進んでいなかったためである。そうした状況を一挙に打開したのがLexicon Iconographicum Mythologiae Classicae, 1981-1999; 2009の刊行である。それ以後、神話画と古代遺品との図像学的照合は遙かに容易になった。 『エイコネス』と古代遺品の照合が盛んになったもう一つの要因は、陶器画ではなく、古代の大型絵画の実際の描法に近い、大理石や漆喰の上に描かれた絵画遺品の陸続たる発見と、それに対する自然科学的研究の進展である。こうして図像学とは別の視点からも研究が進んだ。 古典文献学的手続きの上でも絵画史的註解という意味でも、これまでで最も優れた『エイコネス』の註解はO. Schoenberger et al., Philostratos: Die Bilder, 1968であるが、上記2つの意味で、今ではきわめて不十分と言わざるを得ない。これを更新することが本研究課題の目標であった。 最終年度は、以上すべての視点・問題意識からこれまで4年間追究してきた成果をまとめることに努めた。今後、彫刻に関するエクフラシスの代表作であるカッリストラトス『エクフラセイス』の註解を加えて、2017年に刊行する予定である。
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