本研究「演奏様式に基づく東南アジア音楽文化圏の再画定」は、東南アジアの音楽文化圏を規定するゴング・チャイムという楽器ではなく、特にオーストロネシア語族の分布域において歴史を通じて広く用いられてきたインターロッキングという楽器演奏法、すなわち、ゴング・チャイムも含めて複数人で音高を分担して旋律を組み立てるという行為に着目して、東南アジア音楽文化圏を再画定しようという試みである。 本研究はあらかじめ参照できる資料がほとんどないために、主として現地調査の手段をとる。 平成26年度はインドネシアでの現地調査に集中した。インドネシアにはインターロッキング様式で演奏されるアンクルンという楽器がある。アンクルンはインドネシアの代表的な民族楽器であり、本研究の着想の発端となった楽器である。インドネシア全土で広く用いられるが、その起源は西部ジャワ(スンダ)とされる。 そこでまず、西部ジャワのバンドゥンにあるスリ・バドゥガ博物館にて、古来儀式に用いられていた古式アンクルンの収蔵品を調査した。さらに、インドネシア文化芸術大学バンドゥン校を訪問し、学長及び音楽学部アンクルン科教員と意見交換を行なった。その結果、インドネシアにおいても、アンクルンの歴史についてはまだ研究が進んでいないことを痛感した。しかし彼らとのディスカッションにより、西洋音階に調律して旋律を演奏する現代式アンクルンに対して、儀式に用いられた古式アンクルンは元々旋律演奏を目指したのではなく、音高を伴うポリリズムの性格を持っていたことが判明した。 最終年度に至って、本研究の中核をなすインターロッキング様式が、組楽器によるポリリズム奏から次第に旋律奏へと発達していったプロセスを確認できた。と同時に、台湾、ブルネイ・ダルサラーム、インドネシアにおけるインターロッキング様式の記録資料を収集することができた。
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