研究課題/領域番号 |
24652047
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
西山 康一 岡山大学, 社会文化科学研究科, 准教授 (40448212)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 芥川龍之介 / 奇怪な再会 / 精神科学 / 帝国主義 |
研究概要 |
近代日本における〈文学〉と〈精神科学〉の横断的研究ということで、本年度は芥川龍之介の作品「奇怪な再会」(1922年1~2月、『大阪毎日新聞』夕刊に掲載)や「南京の基督」(1920年7月、『中央公論』)を中心に検討した。 「奇怪な再会」という小説は、主人公の中国人女性、孟惠蓮が周りから狂気に陥っている存在と見なされてゆく話だが、そこで当時の〈精神科学〉がどのようにこの〈文学〉作品に流れ込んでいるのかを確認し、さらに当時この作品が掲載された『大阪毎日新聞』も参照してゆくことで、当時の中国人への帝国主義的な差別意識の背後に〈精神科学〉が絡んでいることを明らかにする。まだ、さらに「奇怪な再会」とほぼ同時期に書かれた、やはり主人公の中国人女性が狂気に陥っているとされる芥川龍之介の作品「南京の基督」とも比較し、この時期の狂気や帝国主義に対する芥川龍之介の意識を探った。 以上のことを本年度の研究成果として、関口安義編『生誕120周年 芥川龍之介』(2012年12月、翰林書房)に「奇怪な再会 帝国主義批判の可能性と限界」として寄稿したり、2013年3月20日の近代文学合同研究会例会で「「奇怪な再会」における〈狂気〉と帝国主義――「南京の基督」を補助線として――」という題目のもとに口頭発表したりした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の実施計画では、「羅生門」や「開化の殺人」など芥川龍之介の初・中期の作品を取り上げて、その〈精神科学〉との関わりを論じてゆくことを目標にしていたが、取り上げる予定だった作品は変わったにしろ、今回取り上げた「奇怪な再会」「南京の基督」もまさに中期の作品ということで、おおむね狙い通り進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
上記したように、本年度取り上げられなかった芥川龍之介の作品「羅生門」「開化の殺人」ほか、芥川龍之介の初・中期の作品を、さらに当時の〈精神科学〉との関わりという視点を通して検討してゆく。また、できれば芥川龍之介以外の作家の作品も、同様の視点から検討し、最終的には近代日本における〈文学〉全体における〈精神科学〉の交わりを見てゆきたいと考えている。 そのためにも、芥川龍之介の作品が掲載された雑誌・新聞や〈精神科学〉に関する雑誌・研究書籍のみならず、当時の文芸雑誌にも視野を広げて、その中で〈精神科学〉がどのような影響を与えているかなども検討してゆきたく思っている。
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次年度の研究費の使用計画 |
芥川龍之介の〈文学〉作品と同時代に成立していた〈精神科学〉の動向を追ってゆく際に、〈科学〉系の雑誌やそれに関する研究書のみならず、芥川も含めて当時の一般の人々が目にしていたと思われる雑誌・新聞の中で、〈精神科学〉がどのように扱われていたかも見てゆく必要がある。 特に芥川と関係の深かった『大阪毎日新聞』を、引き続きさらに追ってゆく必要がある。ところが、そのマイクロフィルムが1つ(1年分)10万円程度するため、今回残ったお金で買うことが出来ず、次年度に繰り越して、次年度にまとめて買うことにした。 そのほか次年度はやはり本年同様、〈文学〉や〈精神科学〉に関わる本や雑誌を購入したり、その系統の学会に参加するための交通費などに、次年度の研究費も当てる予定である。
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