研究課題/領域番号 |
24652047
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
西山 康一 岡山大学, 社会文化科学研究科, 准教授 (40448212)
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キーワード | 芥川龍之介 / 地獄変 / 日本近代文学 |
研究概要 |
近代日本における〈文学〉と〈精神科学〉の横断的研究ということで、本年度は芥川龍之介前期の代表作「地獄変」(1918年5月1~22日、『大阪毎日新聞』)と「二つの手紙」(1917年9月、『黒潮』)を検討した。 「地獄変」という小説は、良秀という絵師が時の権力者(大殿)との確執を持ちながら、最後には一世一代の作品「地獄変屏風」を完成させてゆく、いわゆる芸術家小説だが、そこに描かれた芸術家像はまさにロマン主義の影響を受けながらも、当時の精神科学界でも注目されていた〈天才的芸術家〉像の片影でもあることを明らかにする。そして、そうした芸術家像を新聞小説として提示することが、当時の教養として文学や芸術全般を記事の中に盛り込むことで読者を獲得しようとしていた新聞界で受け入れられ、こうした芸術家像の普及にこの作品が一役買ったであろうことを検証した。同時に、その表現技法には「二つの手紙」で実験した、語り手の狂気が読者に謎解きに向かわせる効果をもたらす、という手法が用いられており、そうした両作の連続性も明らかにした。 以上のことを、本年度は2013年9月16日の近代文学合同研究会夏季大会(於福山文学館)で「「地獄変」へのアプローチ――新聞小説としての戦略」と題して口頭発表し、当日受けた指摘を踏まえて内容を大幅改定した論文(「「地獄変」――『大阪毎日新聞』での戦略」)を宮坂覺編『芥川龍之介と切支丹物』(翰林書房、2014年4月)に寄稿した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の実施計画では、「羅生門」や「開化の殺人」といった芥川前・中期の作品を取り上げる予定であったが、本研究の目的である芥川龍之介作品を通してみた〈文学〉と〈精神科学〉の交わりということを鑑みた時に、むしろ「地獄変」に見られる〈芸術〉家像と当時の〈精神科学〉のかかわりを抑える方が大事であると考え、取り上げる作品を変更した。しかし、いずれにしろ本年度検討した「地獄変」や「二つの手紙」という作品も芥川前・中期の作品であり、芥川前・中期の作品の検討という当初の目的はとりあえず達成できていると考えたため。
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今後の研究の推進方策 |
上記したように、本年度は芥川の前・中期の作品を取り上げて検討した。昨年度はその後に来る芥川の中期作品を取り上げた。次年度は残る芥川後期の作品を取り上げ、〈精神科学〉とのかかわりを検討したい。また、さらに余裕があれば、芥川以外の作家の作品も、同様の視点から検討してゆきたく思っているが、最終年度でもあるので無理な研究範囲の拡大化はせず、まずは本研究であげた成果として、まとまりのある形で終えることを目指したいと考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度も本年度同様、〈文学〉や〈精神科学〉に関わる本や雑誌の購入や学会に参加するためにかかる費用を、本研究の研究費から捻出する必要がある。 特に次年度は本研究最終年度に当るため、研究成果を学会等で発表してゆくことを中心にやってゆかねばならず、そのための費用を取っておく必要があったため。 次年度は本研究最終年度に当るため、引き続き本研究に関する調査・分析を押し進めると同時に、研究成果を学会等で発表してゆくことをより重点的にやってゆきたい。そのため、調査・分析に必要な本や雑誌の購入のみならず、さらには学会発表に使う資料の印刷代や、場合によっては発表資料作成ソフトや発表用の機器(プロジェクター)など、必要に応じて購入してゆきたく考えている。
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