芥川龍之介作品を中心とした〈文学〉と〈精神科学〉の横断的研究ということで、「歯車」(第一章のみ『大調和』1927・6、後に『文藝春秋』1929・10に一括掲載)や「河童」(『改造』1927・3)など、本年度は芥川龍之介の後期作品における〈文学〉と〈精神科学〉の関係性を検討した。 具体的な実績としては、岡山大学言語国語国文学会 (2014年07月26日、於岡山大学文学部会議室)で、「芥川龍之介の後期作品について――その<狂気>の表象をめぐって―― 」という演題のもと口頭発表を行った。この発表では、前記「歯車」や「河童」など芥川後期作品に見られる〈狂気〉の表象のされ方について、昨年度の本研究で検討した芥川の前期作品「二つの手紙」と比較し、前期作品の〈狂気〉の表象には見られなかった、精神の〈正常〉と〈異常〉の境界線を無化するような特徴が、後期作品にうかがえることを浮かび上がらせた。 また、特に「歯車」に焦点を絞りつつ上記の芥川後期作品の研究を更に深める形で、『日本近代文学』第92集(2015年05月発行予定)という学会誌に、「芥川龍之介と森田正馬――『歯車』と『神経質及神経衰弱症の療法』を中心に―― 」という論文を寄稿した。そこでは、特に芥川の旧蔵書である森田正馬の『神経質及神経衰弱症の療法』という本と「歯車」の共通性を探ると同時に、同時代の状況として〈文学〉でも〈精神科学〉でも精神の〈正常〉と〈異常〉の境界線を曖昧化する動きがあったことを指摘し、上記口頭発表の結論の背景として、さらに同時代の〈精神科学〉の動きを探った。
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