研究初年度は「奇怪な再開」・「南京の基督」など芥川龍之介中期の作品を、2年度目は「地獄変」・「二つの手紙」など芥川前期の作品を、最終年度は「歯車」・「河童」など芥川後期の作品を、それぞれ同時代の〈精神科学〉の動きとともに比較検討した。その結果、〈正常〉と〈異常〉の境界線を前提に〈狂気〉を興味本位的に取り扱っていた前期作品から、だんだんと〈正常〉と〈異常〉の境界線を曖昧化して、〈狂気〉というものを存在論・認識論上の根源的な問題として捉える後期作品への芥川作品の変化を浮き彫りにすると同時に、そうした作品間に見られる変化に、同時代の〈精神科学〉の影響があったことを明らかにする。
|