研究課題/領域番号 |
24652051
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
高 榮蘭 日本大学, 文理学部, 准教授 (30579107)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 検閲 / 日韓国交正常化 / ベトナム反戦運動 / 文化運動 / 在日朝鮮人文学 / 韓国民主化運動 / 情報統制 / 出版 |
研究概要 |
帝国日本の解体以後、軍事独裁政権下にあった韓国の民主化運動に対し、日本の「文学―文化」が大きな関わりを持っていたことに注目した。2012年度は、以下の三つの点に重点を置いて研究を進めた。 ①新しい研究をスタートさせるための研究資料の構築(資料の調査・分析を含む)。東京外国大学の金ウネさんと共に、返還前の沖縄・60年代朴正熙軍事独裁政権下のソウル・ベトナム反戦運動のもりあがりを見せていた、東京での文化運動に注目し、韓国―沖縄―東京への書物の流通ルートと文化(言葉)の移動にかかわる資料を集めた。②韓国・アメリカにおける文化運動・書物の移動・検閲をめぐる共同研究の基盤作りをした。ワシントン大学のE・Mack教授、韓国成均館大学の千政煥教授と、2013年11月8日、ソウルで開かれる文化運動と書物の移動に関する国際会議についての議論を重ねてきている。また、ソウル大学のJEONG KEUN SIK教授、成均館大学の韓ギヒョン教授をはじめとする、日韓の検閲研究者と、禁じられた情報や書物の移動をめぐる、日韓共同出版の準備を進めた。③国際ワークショップを企画・開催し、複数言語による領域横断的な成果の公表を試みた。韓国東亞大学石堂学術院文化コンテンツ研究所との共催で「冷戦感覚と情念の共同体」、現代思想編集者である押川淳さんをお招きし、1960年代から2000年代までの出版企画の変容と言葉の移動に関するお話しをうかがった。また、シカゴ大学、プリンストン大学、早稲田大学の研究者との「批評の現在」という共同研究の成果は、アメリカで刊行される予定である。 韓国の軍事独裁政権下における、文化の闇ルートの問題を、他の地域の研究者とのネットワークを構築することによって、より複合的な側面から捉えるための基盤作りができた一年だったと思う。その意味において、最初に提出した研究目標を充分達成することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
第2次世界大戦以後の「文学―文化」の闇ルートおよび運動の力学については、アメリカ、ヨーロッパ、日本、韓国、台湾、中国、ベトナムをめぐる研究との連携が大切である。大きな研究交流のレベルでは見落とされやすい、明確なテーマをめぐる専門的かつ深い議論、そして、多言語による出版、学会誌への掲載などによって、異なる文脈を生きる研究との対話の可能性を提示できたと思う。このような活動を通して作られた、ネットワークを利用しながら、研究資料を集める作業も同時に行っている。 昨年は、沖縄、韓国、アメリカ、フランス、関東周辺に拡散している、文化運動を如何に整理すべきかについて、様々な工夫や試行錯誤のあった一年である。その中で、軍事独裁による厳しい情報統制下にあった韓国・米軍占領下の沖縄・安保やベトナム反戦運動にゆれ、東アジアとの連帯を試みた、日本などで、流通が許可されていなかった思想・書物・人物の移動に関する資料を集め、データ化する作業を開始できた。 また、上記の「9.研究実績の概要」にも記したように、ワシントン大学のEdward Mack、McGill大学のAdrienne Hurley、成均館大学の韓基亨、李恵鈴らこれまで共同研究を作ってきた研究者らとともに研究を進め、とりわけ、日韓において、情報の統制がどのようにされてきたのかについて、日韓共同出版が可能な土台作りができたことは大きな収穫であった。
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今後の研究の推進方策 |
①資料を集める作業を続ける。 今年は沖縄の地方紙や文化運動の当事者が所有している資料を集める作業に入る予定である。韓国では発売禁止になっていた、思想系の本などが日本語として生き延びていることに注目し、それに関する資料も集める予定である。 ②研究を深めるために、共同研究を続ける。 韓国の民衆思想に関する研究をしている人々とのワークショップも予定されている。また、これまでの共同研究以外に、新しく、東アジアの革命と文化の流通について、ソウル大学人文学研究院・ロンドン大学のNaoko Shimizu・オスロ大学のВладимир Тихоновとの共同研究もスタートさせる予定である。2013年まで、5回の非公開の研究会の後、2014年7月11日にソウル大学で国際会議を開く予定である。 ③研究成果を多言語で発表していく。 日本語はもちろんであるが、韓国語で単行本を出版する計画がある。また、共同研究関係者とともに、引き続き、アメリカで文化運動と批評に関する本を共著の形で刊行する準備を進める予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
資料集めのための旅費(沖縄、韓国など)および研究者招聘のための旅費を約250,000円を使用する予定である。日本語、英語、韓国語で出版された、資料を集め、整理するための資金、その他の名目で約100,000円を使用する。小規模のワークショップの運営のための物品費が約300,000円必要である。異なる言語を生きる研究者に、情報を公開するためには、翻訳・通訳・専門的知識の提供を受ける必要がある。それのための人件費・謝金として、約350,000円を使用する。 合わせて、1000000円の予算を使用しながら研究を進める予定である。
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