研究課題/領域番号 |
24652054
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研究機関 | 鹿児島工業高等専門学校 |
研究代表者 |
松田 信彦 鹿児島工業高等専門学校, その他部局等, 教授 (40450150)
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キーワード | 日本書紀 / 漢書 / 後漢書 / クラスター分析 / 区分論 |
研究概要 |
平成25年度の調査として、まずは当初の予定どおり、前年度に作成したテキストファイルを使用し、筆録者の性格に関わるであろうと推測される文字の抽出を行うために、さまざまな文字での分析を試みた。具体的には、『漢書』『後漢書』の本紀を中心に、検討を進めていった。 具体的には、類似の意味を持った2種以上の文字について、その文字使用の傾向に着目し、それぞれの文字使用の相関関係が、書物によって、また、各書物の中でも各巻の中で、差異が生じるかどうかを分析していった。 結果としては、まだまだ十分な成果は得られていないが、現時点で一番顕著な差異が見られたのは、漢文の文末の助字の「焉」「矣」の使用に関する相関である。それは、『漢書』の本紀全13巻と、『後漢書』の本紀全12巻における、「焉」「矣」の使用状況を調査し、クラスター分析を使ってその相関関係を見ていった。使用状況については、単に使用文字数の調査だけではなく、各巻の総文字数を調べた上で、各巻によって差がでないよう、すべて1000文字あたりの使用頻度に置き換え、データの処理にあたっては、クラスター分析の様々な手法の分析を行ったが、ウォード法を用いた時が、もっとも顕著な差異が見られた。 たとえば、『漢書』『後漢書』の本紀、会わせて25巻を、当該2文字の相関でクラスタリングした場合、仮に4つのグループ(I群~IV群)に分けた場合、それぞれのグループに、『漢書』の本紀が入っている割合を見ていくと、I群は4/4、II群は3/4、III群は2/6、IV群は4/11となり、明らかにI群とII群に集中していることが分かる。逆に『後漢書』はII群に1例(1巻)入っている以外は、すべてIII群かIV群に分類されるという結果になった。このことから、当該2文字に注目した場合は、100%ではないが、おおむね文字使用の相関から両書を分けることが可能であることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の予定としては、『漢書』『後漢書』だけでなく、『三国志』『史記』など、その他の文献についても、調査を進めていく予定であったが、『漢書』『後漢書』を使った予備調査では、明確に両者を区分できるような文字を見つけるのに時間がかかってしまった。 また、各書・各巻の文字使用の用例数の処理に、各巻の文字数の相違を勘案する必要があるため、1000文字あたりの使用頻度に置き換える作業にも、時間がかかってしまったうえ、極端に文字数の少ない巻の処理について、他の巻と同様に扱うかどうかについての検討にも時間がかかってしまった。 結果として、当初の目的である、「古典籍ごとの用字・表記の特徴を分析し、また同時に、同じ典籍の中でも、各巻によって筆録者によるものと認められる区分が可能か」については、『漢書』『後漢書』においては、一応の傾向を把握することができたが、それ以外の文献についてはまだ調査が進んでいないので、「やや遅れている」とした。
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今後の研究の推進方策 |
本年度が本研究の最終年度であるため、まずは『漢書』『後漢書』以外の文献にまで、調査を広げるとともに、現時点で確認できる漢文の文末の助字「焉」「矣」の相関が、書物の差として認められるかどうかを確認し、同時に、その他の文字の可能性も探っていきたい。 最終的には、これらの中国古典籍が影響を与えたと思われる『日本書紀』の文字使用の傾向と比較し、従来から指摘されていた直接的な引用による影響(出典論)だけでなく、文体や文字使用の傾向について、その影響関係を分析していきたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
消耗品購入にあたり、見積もり合わせをした結果、当初想定していた金額よりも安価に納入できたため、24,396円の余剰金が生じた。本研究の計画上、その金額を無理に使い切る理由がなかったため、次年度に繰り越すことにした。 当初の予定どおり、旅費と消耗品費の中で、必要に応じて執行していく。
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